コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第181回/通常CDに残されていた最後の伸びしろ[村井裕弥]

 「ハイレゾを聴かせて」と、わが家にいらっしゃる方がたまにいる。大半は「ほう。さすがハイレゾ」と感心され、ハイレゾ再生環境を買い求める方向に進んでいくが、そうならない場合もある。「持ってきたCDをかけてもよいですか」と訊かれ、かけてみたら、「何だ。ふつうのCDだって、こんなにもよい音じゃないですか」こういう流れが何割かあるのだ。
 CDフォーマットは、けして諸悪の根源ではない。実際レコーディングスタジオを訪ね、44.1kHz16bitで収録されたデータをHDDから直接聴かせてもらうと、筆者だって「これで十分かも」という気がしてくる。
 しかし、私たちはそのHDDをそのまま購入できるわけではない。複雑な工程を経て作られるCDを購入するのだから、「HDDからのダイレクト再生」とはいくらか差が生じる。
 マスタリング・エンジニアからは、こんな話も聞く。「何日もかけて、理想的な音に仕上げたのです。しかし、そのプレス用マスターをプレス工場に渡すと、似ても似つかない音のCDができてくる! いったい俺は何のために苦労したのか!?」
 そのような悩みをかかえている関係者、かなりの数いらっしゃるのではないかと推察する。

 そのあたりの問題を一気に解消してくれるのがガラスCD(クリスタルディスクとも呼ばれる)。元々耐久性向上のために作られたと聞くが、2006年私たちの前に現れたときは「デジタルデータの読み取りが数段正確になる」というふれこみであった。
 実際聴いてみるとびっくり! それまで感じていた「CD臭さ」「デジタル臭さ」をまったく感じないのだ。これまで感じていた「CD臭さ」「デジタル臭さ」は、ポリカーボネート臭さだったってこと?
 カラヤン指揮ベルリン・フィルによるベートーヴェン第9、村治佳織がソロを弾くアランフェス協奏曲、コルトー、ティボー&カザルスによる《大公》などがリリースされたと記憶しているが、1枚5万円から20万円もしたから、結局1枚も買えなかった…。

 さてどうする。ガラスCDが主流になれば多くの問題が解決されるのだが、安くても1枚5万円では、ほとんどの方が買えない!
 ガラスCDに近い光学特性を持ち、価格はCDに限りなく近い新ディスク。そんなのが出てくれるとうれしいのだけれど…。
 そんなことを夢想していたら、2015年春、メモリーテックUHQCD(アルティメット・ハイクォリティCD)という新技術を発表。通常CDとどこが違うのかについては、同社のサイトをご覧いただきたいのだが、「ガラスCDに近い光学特性」「価格はCDに限りなく近い」の2条件をクリア。気が付くと、わが家にも多くのUHQCDがあふれている!(井筒香奈江からフルトヴェングラーまで)


 最後に、そんなUHQCDのベストワン候補をあげて、記事を締めくくろう。ヴィーナスレコードのボックスセット『Venus Premium 25』。同レーベルのヒットアルバム25タイトルにイゾラ・ジャズ・フェスティヴァルのライヴ音源を加えた26枚組だ。
 これまでのヴィーナス盤を聴き慣れた人ほど驚いてくれるはず。
 オリジナルマスターとの聴き比べをした友人いわく「真剣に聴き比べたんだけど、ほとんど変わらない。プロデューサー原哲夫さんが皆に伝えたかった音が、そのまんまリスニングルームにやってきた」
 HDDに入っているデータが、CD経由であってもほぼそのまま読み取れるようになったということだろう。
 ナチュラルでストレート。各演奏者の個性もくっきり。もし問題があるとすれば、250セットしか作られないことだけ? UHQCD化によって音がよくなったアルバムは数え切れぬ程あるが、レーベルに関する評価(印象?)まで変えてしまいそうなUHQCD化はほかに例がない!!

(2018年2月20日更新) 
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村井裕弥

村井裕弥(むらいひろや)

音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。

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