コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第62回/ミュージックバードのチューナー [鈴木裕]  

 音楽之友社の月刊誌『ステレオ』の、2014年11月号。田中伊佐資さんと村井裕弥さんが鈴木裕の自宅に来て、ミュージックバードの3種類のチューナーの聴き比べをした企画。その音の結果をまとめてお知らせしておきたい。
 まず、最初にチューナーの名前がわかりにくいので、それぞれを松、竹、梅で表現してみよう。もちろん松が一番良く、2番目が竹で、3番目が梅という順番だ。具体的に何を指しているかというと、

「松」チューナーが、Conclusion C-T1CS(オープン価格。参考売価は12万3619円)
「竹」チューナーが、MDT-3CS(オープン価格。参考売価は8 万8800円)
「梅」チューナーは、CDT-1AMD(オープン価格。参考売価は3万8,800円。これにはデジタル出力のついていないバージョンもあり、価格的にも安いようだ)


この3つだ。
 実は上記の雑誌の鼎談の時、3人ともにチューナーの型番を覚えていなかったのだが、これを覚えられる人はかなりの記憶力か、専門家に近い立場の方じゃないだろうか。名前、型番の付け方に一貫性が感じられないので覚えにくいのだ。設計年次や内々の事情があるのだろうが。


「梅」ことCDT-1AMD

 まず「梅」チューナーについて。
 2種類あって、光リンク(TOS)のデジタル出力を持つものと持っていないものだが、ミュージックバードに加入する方であればデジタル出力は必須であると断言したい。チューナーと表記しているが、実は小出力ながらプリメインアンプ機能も持っているので、慣習的には「レシーバー」と呼ぶべき存在かもしれない。

 RCA端子のアナログ出力の音は、全体に音の密度が薄く、色彩感は淡く、低音は力が弱く、かと言って中高域の存在感が強まることもなく、よく言えばマイルドな、よく言えばおだやかな、よく言えばソフトフォーカスの音である。何を聴いても共通したダルさがあり、BGとして低い音量で流しておくのにはいいかもしれない。


  MYTEK DIGITAL Stereo192
 デジタル出力は、今回はふだんのうちのやり方とは違って、マイテックデジタルのSTEREO 192 DSD DACにダイレクトに光ケーブルを指してテストしたが、それでも100点満点で言えばアナログ出力の40点くらいからデジタル出力の65点くらいに向上した印象。基本的にしっかりした音になり、低域、中域、高域のそれぞれがきちんと主張しながら帯域バランスは整い、音像の実体感とか、音場感も出てきた。と言うか、そういうオーディオを語る時の言葉がここに来てやっと有用になってきたとも言える。マイテックデジタルのこのDACは強い音を持った製品で、ミュージックバードとの相性もいいようだ。ただ、音の剛性感とか立ち上がりやしゃがみの俊敏さとか、シャープさといった意味では残念ながらいささか物足りない。「梅」チューナーの電源部やプラスチック製のボディの感じが出ていて、いろいろと対策したくなる。

 つづいて「竹」チューナー。
 実は「竹」チューナーの中身の回路は「梅」チューナーとずいぶん重複しているという。電源部を充実させ、ボディを金属製のしっかりしたものにし、なおかつデジタル出力を光2系統と同軸の2系統持たせているところに特徴がある。アナログ出力も持っているがこれは基本的に「梅」と同じアンプ部で、デジタル出力で聴いてもらいたいというのが本音のようだ。
 それでもまずアナログ出力で聴いた「竹」チューナーの印象は、アナログ出力の「梅」チューナーよりもずいぶん良く、さすがにボディと電源部は効いてくる。ただし、低域はまだまだ軽く、高域の刺激感や、音像の実体感には不満が残る。


「竹」こと新チューナーのMDT-3CS

この「竹」チューナーが本領を発揮するのはやはりデジタル出力、それも同軸(コアキシャル)を使った場合だろう。TOSリンクでもその威力はあるが、同軸と比較すると2ランクくらい、音のしっかりした感じや押し出しの良さなどは物足りなくなってくる。たしかに光デジタルでも音の密度や音場の奥行き方向の表現力など、「梅」チューナーのTOSリンク出力に比較してグレードが上がっているのだが、同軸ではさらにしっかりした音になる。


「松」ことC-T1CS


  ESOTERIC K-03

 そして「松」チューナーである。アナログ出力では、音の純度がいっきに向上し、音の透明さ、色彩感、空間の立体的な感じ、音のキレなどすべてに渡ってさすがと思わせるものがある。またデジタル出力でも、「竹」チューナーより明確に実在感、臨場感ともにある水準を越えている。それに「松」チューナーには外部クロック入力用の端子も装着されているので、これを使うとまた音の向上が見込める。
 値段で言うと、4万円弱の「梅」、9万円弱の「竹」、12万円弱の「松」チューナーというラインナップだが、たとえばUSB DACの値段で考えてみると、4万円弱から12万円弱ではこんなに音の差は出ない。そう考えると、自分の判断としては「松」チューナーがもっともコストパフォーマンスがいいようにも感じてしまう。とは言え、外部DAコンバーターを使うことを前提にすれば、「竹」でも充分なクォリティを確保できるのがうれしい。音にこだわる方であれば、「松」か「竹」を推薦する、というのが結論だ。

  ちなみに鈴木裕の自宅では「梅」チューナーの、スイッチング電源を使ったアダプターの対策として中村製作所(NS)のNMMB01を使用。
 さらに、「梅」のTOS光出力をいったんエソテリックK-03の外部入力端子に入れたあと、K-03をDDコンバーター的に使い、その同軸出力をマイテックデジタルのSTEREO 192 DSD DACに入れるという変則的な使い方をしていることを付け加えておこう。(参考:コラム第2回

(2014年10月31日更新) 第61回に戻る 第63回に進む 

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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