コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第71回/リファレンスシステムについて
 ~アキュフェーズの音 [鈴木裕]  

 オーディオ雑誌にはそれぞれにリファレンスシステムというものがある。
 具体的に書くと、音楽之友社の月刊誌『Stereo』の連載として「Stereo試聴室 話題の新製品を聴く」。この企画では毎回4名のオーディオ評論家が集まって製品テストをしていくが、まずリファレンスシステムでそれぞれの試聴曲を聴いてから製品テストに移っていく段取りだ。ちなみに現在のシステムとしては基本的にスピーカー以外はアキュフェーズの製品で、SACD/CDトランスポートDP-900、DAコンバーターDC-901、プリアンプC-3800、パワーアンプM-6000。そしてスピーカーがフォステクスのRS-2with NW-3。他にもプリメインアンプとしてE-260を使ったり、デジタルプレーヤーとして一体型のDP-550、フォノイコライザーとしてC-37(直近までC-27だった)を使用したりする。


連載「STEREO試聴室 話題の新製品を聴く」。そのテスト環境のレベルが高い!

 リファレンスシステムの役割は「音の基準」である。安定してその音が出ていることが重要だ。この試聴室の基準の音はこれで、ある製品をそれに置き換えて、クォリティなり、音の方向性を正確に把握させる役目がある。その基準が壊れやすかったり、電源事情などで不安定な音になってしまっては芳しくない。リファレンスに求められる要件としては基本的に高いSN比や駆動力、音楽表現力、情報量を持っていてほしい。これらを総合するとなぜアキュフェーズがメインに使われているか。納得される方も多いと思う。

 ただし、ちょっと問題だと思っているのはこの基準のレベルが高いことだ。音が良くて基本性能がきわめて高いのだ。もちろんこれはいいことなのだが「基準」としてはかなり高すぎると感じる場合もある。
 たとえばパワーアンプ等の電源トランスの唸り。設計、製造段階でのクォリティの追求はもちろん、聴診器を使って検品していると言われるアキュフェーズは唸らないのが当たり前だ。そういうものを基準にすると、テスト対象の製品がちょっとでも低く唸ってしまうととても気になるのだ。静かなオーディオルームで聴いている方には必要な要素なので、たしかに唸らないことが求められてはいるのだが。

 ボリュームのガリについても、少なくとも僕がオーディオ雑誌で仕事をするようになってアキュフェーズのプリやプリメインアンプのボリュームを操作して、ノイズが出たのを聴いたことがない。スムースに音量調節できるのがごくごく当たり前である。電子ボリューム(固定抵抗切り替え方)のスススーッといったわずかなノイズもない。


Accuphase DP-900


Accuphase DC-901

 基本的な性能と言っていいかわからないが、SN比もきわめて優秀である。アキュフェーズは特にここ何年かSNを良くすることに注力しているが、かと言って30年前の製品、たとえば僕も使っていたC-280といったプリアンプのSN比が悪いと感じたことはなかった。また、テストしていてジーとかザーとかサーといった実際のノイズが聞こえてくる製品もほとんどない。しかし、実際にSN比の高い製品で音楽を再生すると、たとえば空間の見通しが良かったり音場がしっとりしたり、あるいは演奏が始まる瞬間のタメとか気迫みたいなものがより強く、より深く感じられたりする。これはアキュフェーズの製品に限らないが、高級オーディオの音自体の静かさがどんどん上がっているのはそれが実際に体感できるし、音楽表現力に効くものであると証言したい。このSN比の基準が高い。

 さてさて、ここまでは基本的な性能というククリだが、音楽性とか趣味性の高い音という項目についても基準が高い、高すぎる。

 たとえばSACD/CDトランスポートDP-900、DAコンバーターDC-901の組合せ。オリジナルの超重量級・高剛性・高精度のSA-CDドライブであるとか、専用のDSPを使用したデジタルサーボだとか、ESS社の有名なDACデバイスES9018を左右チャンネルごとに2個使い、16回路並列駆動させるというMDS変換方式を取っているとか、そういったいい音を生み出す要件をいろいろと持っているわけだが、実際に聴きだすとそのオーディオ的情報量と、高級セダンに乗っているような聴き心地の良さを両立した音に感服する。深々とした、濃い情緒で音楽を再生してしまうので、仕事でオーディオをテストするためにまずリファレンスシステムを聴いているのに、実は毎回、その気持ち良さのために仕事をする気がなくなってしまうほどだ。

 あるいはモノーラルのパワーアンプのM-6000。8Ωでの出力こそ150Wだが、1Ωまで倍々に増加して1200Wをギャランティ。実際にはその数字以上にトルク感を持っているアンプで、スピーカーへの駆動力は文句なしに高い。しかもそういった数字とか出力自体、余裕ある設計の中で実に特性が良いために、スピーカーが楽しそうに歌ってしまうのだ。それと置き換えてテスト対象のパワーアンプを鳴らしだすわけだ。もちろん客観的に評価するのだが、第一印象みたいな言葉で言うとなかなか感動できない。こちらも人間なので、主観的にそう感じているのはたしかである。

 SACD/CDプレーヤーとしてアキュフェーズでもっとも安い価格であるDP-550。これがまた罪作りだ。上位の一体型デジタルプレーヤーと聴き比べると、語弊があるがより若い音で、溌剌としている。しかしこれ、絶対的な基準軸に置いてみればとても成熟した音で、背景の静かさとか音像の描き方もこれみよがしではない中にしっかりと表現する製品だ。もちろんSN感とか、アナログ出力部の出来もすこぶるいい。すこし前にUSB DAC付きのヘッドフォンアンプのテストをしたのだが、PCからの再生音はもちろん、アナログ入力がどう聞こえるかの入力源としてDP-550からのアナログ出力を聴いた。


Accuphase M-6000


Accuphase DP-550

結果として100万円を越える製品のDAC部の音よりも、DP-550からの音の方が余裕とか成熟を感じさせるもので、音の鮮度感としてヒケを取っていなかった。平たく言って、いい音なのである。これは雑誌にも書いたことがあるが、USB DACの歴史とデジタルプレーヤーの歴史では長さが違い、その音の習熟度も違う。その差もたしかにあったとは思うが。複雑な気持ちになったものだ。

 高い基準(リファレンス)を持ったテスト環境について書いてみた。アキュフェーズの製品が売れているのもきちんとした裏付けとか実力があってのことだと、リファレンスとして聴く度に感じる。また、これはあまり知られていないようなので最後に記しておきたいが、テストしてボツにする製品もある。商業誌はいつもいいことしか書かないではないかという人もいるが、そんなにテキトーなものではないということだけは言わせていただきたい。

(2015年1月30日更新) 第70回に戻る 第72回に進む 

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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