音楽コラム「Classicのススメ」


2005年08月②/第17回 301年目のビーバー

 このところ、CD店の店頭などで、ハインリヒ・イグナツ・フランツ・フォン・ビーバーという作曲家の名前と、その作品を耳にする機会が増えている。 大バッハより41年前の1644年にボヘミアで生まれ、17世紀後半にザルツブルク大司教の宮廷で働き(モーツァルトの大先輩ということになる)、宮廷楽長に登りつめて1704年に亡くなったビーバーは、去年ちょうど没後300年を迎えた。その記念年を契機として、謎の多いこの作曲家への関心が急速に高まったのである。

 特に人気が高く、名のあるバロック・ヴァイオリニストたちがこぞって録音しつつあるのが、「ロザリオのソナタ」と通称される、聖母マリアの生涯を描いた連作ヴァイオリン・ソナタ集だ。中でも、無伴奏ヴァイオリンのために書かれた第16番のパッサカリアは、バッハのシャコンヌの先駆けとなる大曲として注目されている。

 しかしそれだけでなく、教会音楽の分野でも再評価の気運が高まっているのだ。8月 21日のBBC Concertで放送する「キリストの復活のためのミサ」も、2000年に校訂譜が出版されて300年ぶりに甦った作品だが、輸入盤CDが2種たて続けに発売を予定されるなど、いま話題の作品である。

 ここで指揮にあたるアンドルー・マンゼは、バロック・ヴァイオリンの名手として知られる。ビーバーもヴァイオリンを得意としたから、その作品の演奏家としてはうってつけの存在ともいえるだろう。当時の雰囲気を再現するべくビーバーの別の作品を挿入して、それに合わせて合唱団を出入りさせるなど、演出も凝っていて楽しい。4か月後にセッション録音された同作品のcd(ハルモニア・ムンディ)も間もなく発売される予定なので、聴き比べが楽しみである。

 

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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