音楽コラム「Classicのススメ」


2006年01月①/第27回 「よき後継者」テミルカーノフ

 いきなり宣伝めいて恐縮だけれども、半年ほど前に『名指揮者列伝』という本を上梓させていただいた。月刊誌のシリーズ掲載をまとめたものである。そこで、一人ずつ書いていたときには気がつかなかったのだが、本にまとめる段になって、初めて気がついたことがあった。

 オーマンディ、バルビローリ、ベイヌムの3人がほぼ同年代(前2人が1899年、ベイヌムが翌1900年)だったことである。この3人、それぞれフィラデルフィア、ニューヨーク、アムステルダムのオーケストラの指揮者を務めていたことがあるのだが、いずれも非常に個性の強い前任者(ストコフスキー、トスカニーニ、メンゲルベルク)の跡を襲うという、困難な役目を負わされていたのだ。

 華やかなスター指揮者が嵐のように去って、いわばその「後始末」をするというのは、苦労ばかりで報いられることの少ない仕事である。その難事を引き受けた3人がそろって19世紀末年の生れということに、何か不思議な因縁を感じたのだった。

 さて、最近は指揮者とオーケストラの関係が何十年も続く機会が減ったので、こうした苦労を背負う指揮者も少なくなった。その中でユーリ・テミルカーノフは、数少ない例外の一人である。彼が1988年に芸術監督に就任したレニングラード・フィルは、その直前までムラヴィンスキーが、半世紀の長きにわたって君臨していたオーケストラだったのだ。

 引き継いでから数年後にソ連が解体、市名の変更に伴ってオーケストラもサンクトペテルブルク・フィルと名を変えた。周囲の状況も激変した。その中でテミルカーノフは、この名門に新しい血を流し込み、すでに15年以上も指揮を続けている。

 今回のBBC Concertでは、1991年と2004年の二つのライヴを聴き比べて、両者の関係の「深化」のほどを確かめてみたい。

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
山崎浩太郎のはんぶるオンライン