音楽コラム「Classicのススメ」


2006年05月/第32回 《ジュノーム》の意味

 BBC Concertで放送する曲には、ときに未知の現代曲が含まれている。

 問題なのは、そうした曲のタイトルをどう日本語にするかである。「交響曲第1番」などなら苦労はないが、凝った標題だったりすると大変だ。ただ直訳すればいいというものではないからである。

 二重の意味があったり、北欧の作曲家なのにわざわざドイツ語を使っていたり、単純でないものが多いので難しい。原語をただ機械的にカタカナ表記するのが最近の流行だが、それでいいのかという思いが残る。

 この問題はいつの時代も変わらないようで、石井宏さんによると、昭和前半にある高名な評論家がモーツァルトの《ジュノーム》協奏曲を評して「ジュノームとはフランス語で『若い人』の意味で、その名のとおり若々しい音楽です」と書いたそうだ。

 しかしこの曲の場合の「ジュノーム」は、ある女性ピアニストの姓にちなんでいる。つまり人名だから訳してはいけないのである。それをわざわざ訳して解説してしまい、後世に失笑を買うことになったわけだ。

 とても人ごととは思えない「怪談」だが、今回の《ジュノーム》協奏曲にかぎっては、「若い人」と訳しても間違いでないかも知れない。1970年生れのアンスネスに67年生れのギルバート、オーケストラも若手中心。

 特にアンスネスの瑞々しい感性は、まさに「ジュノーム」ならではの音楽である。

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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