音楽コラム「Classicのススメ」


2007年05月/第44回 嵐を呼ぶ男

 劇的な人、とでもいうほかない人生を生きる人がいる。
 現役の指揮者のなかで、大植英次ほど劇的な生を生きている人は少ないかも知れない。
 始まりからしてそうだった。1990年のバーンスタイン最後の来日公演のさい、死を目前にして衰えていたバーンスタインから、演奏会中の一曲の指揮を委ねられる。健康上の理由だけでなく、バーンスタインはかつて自身が副指揮者だったときの経験から、こうした形で若い副指揮者たちに機会を与えることを好んでいたのだが、開演直前になって急にその事実を知らされた聴衆の一部が激昂、主催者に抗議する騒ぎとなった。
 大植にとっては最悪の形での「デビュー」だったろうが、しかしむしろこの一件で彼の名が、音楽ファンの印象に残ったことはたしかである。そしてそれから時間をかけて大植は汚名を雪ぎ、知名度をますます高めてきた。1995年にアメリカのミネソタ交響楽団音楽監督へ抜擢されて大成功し、3年後にはハノーファー・北ドイツ放送交響楽団の首席指揮者となって欧州に地歩を築き、2003年には大阪フィルの朝比奈隆の跡を継ぐという難事を引き受けて、成功を収めつつある。
 かと思えば、バイロイト音楽祭の指揮者を1年で降板するなど、とにかく話題に事欠かない「嵐を呼ぶ男」大植英次。EURO LIVE SELECTIONでは24日から3日間、彼の指揮を特集する。お楽しみに!

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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