音楽コラム「Classicのススメ」


2007年10月/第49回 光は歌劇場より

 9月上旬に行なわれたチューリヒ歌劇場の日本公演は、近年のさまざまな引越し公演の中でも特筆すべき絶賛を得た。
 始まる前の人気はけっして高くなかったのだが、特に「ばらの騎士」での、オーケストラの精妙な表現が支えるアンサンブル全体の出来のよさが客席の聴衆を興奮させ、評判が評判を呼び、人気が急激にクレシェンドする形になったのである。
 その評価の中心にいたのが、この歌劇場の音楽監督として全公演の指揮にあたったウェルザー=メストである。少し前に2010年から小澤征爾の後を受けてウィーン国立歌劇場の次期音楽監督になることが決定して話題になったものの、これまで日本ではもう一つ評価が定まらない存在だった。それというのも、日本ではどうしても指揮者を交響楽団とのコンサート活動で評価する傾向があるのに、その方面でのウェルザー=メストの動きが、近年あまり伝わっていなかったからだ。
 すでに2002年からアメリカの名門クリーヴランド管弦楽団のシェフとして活動し、契約が延長されるほどの成果を残しながら、アメリカのオーケストラのCDがほとんどつくられない、来日公演も少ない時代にあたってしまったため、日本では評価しようがなかったのである。
 だがその間に、世界が求める指揮者像は変わりつつあったのだ。交響楽団を中心に華やかに活躍するアメリカ型のスター指揮者よりも、歌劇場に拠点を置いて着実に自らとその音楽を錬磨していくヨーロッパ型の指揮者たちこそが、向後の音楽界を担いつつある。そしてかれらはいま、歌劇場だけでなく交響楽団のシェフとしても、その翼を拡げようとしている。ウェルザー=メスト以外にもファビオ・ルイージ、ウラディーミル・ユロフスキなど、その数は増える一方だ。

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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