音楽コラム「Classicのススメ」


2007年11月/第50回 プレトニョフのベートーヴェン

ピアニストとして超一流の腕を持っていて、指揮者としても大活躍している音楽家はいま、何人もいる。バレンボイム、エッシェンバッハ、チョン・ミョンフン、アシュケナージなどの名前がすぐにあがるだろう。
そしてプレトニョフも、その道を歩もうとしている。1978年のチャイコフスキー・コンクールのピアノ部門(第3位にテレンス・ジャッドという、若くして亡くなったイギリスのピアニストが入っていたことでも名高い)で優勝という輝かしいキャリアを持つ彼はソ連解体のさなかの1990年に私財を投じて、ロシア初の民営オーケストラであるロシア・ナショナル管弦楽団を設立、その音楽監督として本格的な指揮活動を始めた。このオーケストラは録音機会にも恵まれ、1990年代にはプレトニョフの指揮でチャイコフスキーやラフマニノフの交響曲全集を完成した。
その後、1999年からプレトニョフは音楽監督の地位をヴァイオリニスト出身のスピヴァコフに譲って、ピアニストとしての活動や録音を再開していたが、このオーケストラの芸術監督として主導的地位に返り咲くと、ふたたび指揮者に重点を置くことにし、ピアノの方は控えるという。
 そしてそのプレトニョフが満を持し、ロシア・ナショナル管弦楽団を指揮してリリースしたのが、ベートーヴェンの交響曲全集なのである。緩急強弱、バランスなどでの独自の解釈とアイディア、そして力強さと活力に満ちたこの演奏を、プレトニョフはピリオド奏法の影響とは無関係につくりあげたそうだ。
 彼らの活動からは今後は目が離せない。そう痛感させてくれるベートーヴェンである。

山崎浩太郎(やまざきこうたろ)う
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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