音楽コラム「Classicのススメ」


2008年07月/第58回 ネマニャ!

 ネマニャ・ラドゥロヴィチ。
 1985年セルビア生れの、若い男性ヴァイオリニスト。メジャー・レーベルに録音していないせいか、メディアに大きく取りあげられてはいないのだけれど、ここ1年の間に数回来日して、熱心なファンを獲得している。
 日本での始まりは、昨年の「熱狂の日」音楽祭だった。その直前のナントでの元祖「熱狂の日」でラドゥロヴィチなる若者の演奏が大きな話題になったと伝わってきて、その彼が日本にもくるということから、耳ざとい人たちの噂になったのだった。
 ふだんは流行遅れなことばかりしている私だが、なぜかこの人は気になった。ひとまずフランスのマイナー・レーベル、トランスアートから1枚だけ出ていた無伴奏リサイタルを聴いて、まだ粗削りだけれど「大化け」を予感させる個性の大きさに惹きつけられた。
 そして、ナマを聴いて、大好きになった。チャイコフスキーの協奏曲。まさに躍動するヴァイオリン。歌い、飛び跳ね、踊る。その自由さと活力。
 印象的なのは、弾くうちに弓がチーズのようにささくれること。合間合間に「削りカス」をちぎりすてる。右手のバネが強靱で、独特の激しい動きをするために、弓が削れるらしい。しかしこの力強い動きこそが、ダイナミックに瞬動する音楽を生むのである。
 彼を聴いて痛感するのは、ヴァイオリンがリズム楽器でもあること。そしてリズムとメロディの、不可分な結合だ。こういう人がいるかぎり、クラシックは活きつづける。
 その待望の新譜は、メンデルスゾーンの協奏曲。やっぱり凄い!

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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