音楽コラム「Classicのススメ」


2009年04月/第67回 ピアノは甦る

 

 指揮者もピアニストも、時代は完全に1970年代以降の生れの人たちのものになりつつあるのか、という気がする。
 若いからいい、新鮮だからいい、物珍しいからいい、というのではない。若い世代というのはいつの時代にもいるから、別に珍しくはない。そういう年の若さの問題ではなく、20世紀後半風の重苦しい、音をおくような音楽とは異なる、軽快で俊敏に弾むリズムのセンスをもった人々が、1970年を境に、どんどん増えてきているようなのだ。
 トッパン・ホールでベートーヴェンのソナタ全曲の連続演奏をおこなっているティル・フェルナーは、1972年生れ。今月の「ニューディスク・ナビ」でモーツァルトとショパンの素晴らしい演奏をご紹介する、オリヴァー・シュニーダーは、1972年生れ。ドイツのバッハ弾きとして注目を集めるマルティン・シュタットフェルトは、1980年生れ。6月に来日して「ハンマークラヴィーア・ソナタ」を弾くことになっているジャン=フレデリック・ヌーブルジェにいたっては、1986年生れで今年まだ23歳である。
 外国人だけではない。日本にも、3月にデビュー盤がRCAから出たばかりの、河村尚子(かわむらひさこ)という、1981年生れの女性がいる。しなやかでやわらかいタッチが生む多彩な音色は、これまでの日本人ピアニストには聴いたことのないものである。
 それぞれに個性は異なるけれど、共通するのは軽妙なセンス。クラシックが50年間忘れていた音の愉悦と躍動が、かれらとともに甦りつつある。


 

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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