音楽コラム「Classicのススメ」


2010年12月/第87回 カルロス・クライバー、きらめく残像

 今年は、1930年生れのカルロス・クライバーの生誕80周年にあたる。
 同い年のマゼールは今も元気に活動中だが、クライバーは2004年に亡くなっている。しかもその5年ほど前から演奏会に登場しなくなっていたし、CDでは現時点で最後の記録となる、ウィーン・フィルとの2回目のニューイヤー・コンサートは、18年前の1992年元旦、つまり平成4年のライヴだから、基本的には「昭和」の時代の指揮者といっていい。
 だが、その指揮による演奏は、まったく古びていない。あらためて聴きなおすと、速めのテンポ、跳ねるようなリズムなどには、現代のピリオド様式の演奏スタイルを予告する一面があったことに驚かされる。
 重々しい、遅めのテンポが主流だった、同時代の様式を軽々と跳びこえて、閃光のようにその音楽は鳴りひびいたのだ。そうして、一瞬に消え去っていったが、その残像は鮮烈という以外の何物でもなく、いやはや、「天才」という言葉は、こういう人間のためにあるのだ、と、聴く者にため息をつかせるものだった。
 今回のウィークエンド・スペシャルでは、クライバーとその遺族が発売を許可した正規の録音の、ほぼすべてを集めてお聴きいただく。現時点で抜けているのは、オルフェオから発売された、フレーニのウィーン国立歌劇場ライヴ録音集に含まれた、1985年の「ボエーム」の第4幕の一場面だけだが、これは15日放送の「ニューディスク・ナビ」で取りあげる。この録音で、すべてが揃ったことになる。ぜひそちらも、あわせてお聴きいただきたい。

 

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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