音楽コラム「Classicのススメ」


2011年1月/第88回 2010年のレコード・アカデミー賞

 音楽之友社選定の「レコード・アカデミー賞」が、今年も発表された。
 大賞は声楽曲部門から、アーノンクール指揮ウィーン・フィルの、ブラームスのドイツ・レクイエム。2010年秋には「最後の来日公演」を行なったこの指揮者は、ブーレーズとともにメジャー・レーベルから話題盤を継続的に発売できる、いまでは希少な老練である。このブラームスといい、歌劇「ポーギーとベス」といい、十八番の再録音に頼らずに新しいレパートリーを開拓する意欲は、レコードという「芸術」の担い手として、まことに頼もしい。
 銀賞はオペラ部門から、バルトリが歌う「神へのささげもの」。新譜のごく少ないオペラ部門では、フローレスともに、このバルトリは貴重なスター。単なるアリア名曲集ではない、明快なコンセプトが魅力だ。
 大賞も銀賞も声楽関係というのも面白いが、今年の最大の特色は、マイナー・レーベルの躍進である。器楽曲部門のメジューエワ盤を制作した、若林工房のような日本の会社だけでなく、交響曲、管弦楽曲、室内楽曲、音楽史、現代曲の一挙5部門で、輸入盤に日本語解説と帯をつけたスタイルのマイナー盤に賞が与えられた。銅賞も得た室内楽曲部門のアルカント四重奏団の盤を制作したフランス・ハルモニア・ムンディなど、こうなると印象的にはメジャーのように思えてくる。
 しかし一方で、ラトル指揮の「くるみ割り人形」とか、小澤征爾指揮の戦争レクイエムなど、「レコード芸術」特選にならなかったために候補から外された話題盤もあり、これらは惜しい気がする。

<大賞 声楽曲部門>
ブラームス:ドイツ・レクイエム
ニコラウス・アーノンクール指揮ウィーン・フィル 他(RCA SICC1369)

<銀賞 オペラ部門>
バルトリ/神へのささげもの
チェチーリア・バルトリ(Ms) (デッカ UCCD9764~5)

<銅賞 室内楽曲部門>
ドビュッシー、デュティユー、ラヴェル/弦楽四重奏曲集
アルカント・カルテット (ハルモニア・ムンディ・フランス KKC5108)

 

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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