音楽コラム「Classicのススメ」


2011年5月/第92回 フォルテピアノによるショパン

 ピリオド楽器がバロックだけなく、モーツァルトやベートーヴェンなど古典派の作品演奏にも広がりはじめた1980年代、その新鮮な響きを面白がりつつも、「これだけは最後まで抵抗が残るかも」と感じたのが、フォルテピアノの、ポコポコとした響きだった。
 今にして思えば、演奏側の奏法の未成熟による違和感も大きかったので、たとえばシュタイアーのような優秀な奏者が登場することで、現在ではその独自の美を、かなり自然に楽しめるようになってきた。
 近年は、ショパンやシューマンなど19世紀前半の作品でも、同時代のフォルテピアノで演奏することが、かなり普及しつつある。それも、古い鍵盤楽器専門の特殊な奏者たちだけではなく、ふだんはモダン・ピアノを弾いている一流ピアニストが、使い分けてそれを弾くようになってきた。
 そうした時代の変化を、CDで一番感じさせてくれたのが、ワルシャワのショパン協会の「ザ・リアル・ショパン」シリーズだ。ショパン演奏の総本山みたいなこの協会が、エラールやプレイエルのフォルテピアノによる全集をつくってしまったのである。
 それは同協会のモダン・ピアノによる全集とは違って、けっして「模範演奏」を示すというものではないようだが、ここに新たな地平線がひらけたことは間違いない。
 日本の有名ピアニストでも、仲道郁代が1841年のプレイエルで、横山幸雄が1910年のプレイエルでショパンを弾いたりと、自分なりの方法で、新たな道を試みる人が出てきている。どんな果実が生れるか、これからが楽しみだ。

 

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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