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音楽コラム「Classicのススメ」


2005年07月②/第14回 ロンドンのハイティンク

 

 ベルナルト・ハイティンクが故国オランダのオーケストラを離れてから、はや17年が経とうとしている。

 1929年にアムステルダムで生まれたハイティンクは、28歳でオランダ放送フィルの首席指揮者になり、1961年に32歳でコンセルトヘボウ管弦楽団の常任指揮者(64年からは芸術監督)となった。1988年、オーケストラの創立百周年を期に勇退するまで、四半世紀以上も母国の名門を統率していたのである。

 いわば名実共に「オランダのシンボル」的な存在だったわけだが、60歳をすぎた1990年代からは、一転して活動の場をオランダの外に移すようになった。そしてその新たな拠点となったのが、イギリスのロンドンである。それ以前にもロンドン・フィルの芸術監督を70年代につとめるなど、早くから関係を強めてきたこの町の、コヴェント・ガーデンの王室歌劇場の音楽監督というのが、彼の新たな主要ポストだった。

 その実直で虚飾のない、ていねいで柔和な音楽づくりが、ロンドンの聴衆に愛された一因なのだろう。ハイティンクは2002年まで、15年間もこの歌劇場に留まることになった(陰謀うずまく歌劇場の職務というのは、オーケストラよりもずっと過酷である)。その後は急逝したシノーポリの後を引き受けて、ドイツのドレスデン・シュターツカペレの首席指揮者となっている。

 今回のBBC Concertでは、ハイティンクが「第2の故郷」ロンドンに、ボストン交響楽団とドレスデン・シュターツカペレを引き連れて登場した演奏会を、2週続きでお送りする。

 アメリカとドイツのこの二つのオーケストラは、それぞれの国において、とりわけ落ちついた、木質の響きを持つことで有名な存在だ。この点でハイティンクの音楽性ともよく似ているだけに、相性はぴったりといえる。それぞれに調和のとれた美しい響きを、ご堪能あれ。

 

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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