音楽コラム「Classicのススメ」


2005年10月①/第20回 ピリオド楽器のワーグナー

 

 10月のBBC Concertは、ラトル強化月間(?)。11月にベルリン・フィルと来日するサー・サイモン・ラトルのライヴ録音を、4週間にわたってお送りする。

 4週のうち、前半はイギリスのバーミンガム市交響楽団とオーケストラ・オブ・ジ・エイジ・オブ・エンライトゥンメント、後半はベルリン・フィルという構成になっている。

 オーケストラ・オブ・ジ・エイジ・オブ・エンライトゥンメントというのは、いうまでもなくピリオド楽器の団体で、ノリントンの指揮で録音したcdなどで知られている。面白いことにラトルがこの団体を指揮する機会は、演奏会ではなくオペラ(セミ・ステージ形式の上演も含めて)に限られているようだ。モーツァルトの《コジ・ファン・トゥッテ》はcd化されているし、《フィガロの結婚》も以前に当番組で放送した。

 モーツァルトの作品をピリオド楽器で演奏するのは、現代ではむしろ当然のこととなっているから、それでラトルがモーツァルトのオペラのためにこの団体を起用したのだろうとは、容易に想像がつく。ところが今回の放送で取り上げられるのは、ワーグナーなのである。ベートーヴェン以降の音楽では基本的に現代楽器のオーケストラを使っているラトルが、ワーグナーでなぜピリオド楽器なのだろう。

 ラトルはワーグナーでも《トリスタンとイゾルデ》や《パルジファル》のような 1850年代末以降の楽劇では、現代楽器のオーケストラ(ロッテルダム・フィルなど)を指揮して上演している。しかし今回の《ラインの黄金》は1853年から翌年に作曲されたもので、書法的にはまだ極端に複雑な音楽ではない。その明快な響きを活かすにはピリオド楽器こそふさわしい、とラトルは考えたのではないだろうか。

さて、その成果は如何。

 

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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