音楽コラム「Classicのススメ」


2006年08月/第35回 帝王のレコード

 帝王と呼ばれた男、ヘルベルト・フォン・カラヤン。


 しかしかれは、ただの指揮者だった。どんなに豪壮華麗な響きをオーケストラから導き出そうと、それは瞬時に消えていく。永遠に残り、聴きつがれていくような名曲を書き上げる作曲家ではなく、ただの指揮者だった。それでも、カラヤンという名前とその存在は、没後17年を経た現在も色あせることなく、クラシック界を象徴するものとして、光り輝いている。


 彼は、指揮者が永遠の名声を博すためにはどうすべきか、自らが不在となっても、この世にあまねく在るためにはどうすべきか、よく知っていた。


 レコードである。かれはつねに最新の技術を用いて、永遠に残るレコードに、自らの芸術をとどめていった。SP、LP、CD、さらに映像ソフト。生前のカラヤンが知る由もなかったDVDやインターネットの時代にも、その演奏は記録となって残る。


 そのレコードの中に、カラヤンは自らの何を、どのような姿を、とどめようとしたのか。いま、あらためて聴きなおしてみよう。

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
山崎浩太郎のはんぶるオンライン