音楽コラム「Classicのススメ」


2007年08月/第47回 ドゥダメルあらわる

 鳴り物入りで登場する新人は少なくない。しかし、何年かクラシック界の動きを追っている人なら、その新人たちが皆そのまますくすくと伸びるとは限らないことは、いやでもわかってくる。
 ドゥダメルという指揮者が登場したときにも、「またか」という感想を抱かれた人が少なくなかったに違いない。
 かくいう私自身がそうだった。デビュー盤のベートーヴェンの交響曲第5番と第7番の1枚は、正直言ってそれだけではその実力を測れるものではなかった。現代流のピリオド・アプローチではないことだけはわかっても、それがただのアナクロニズムなのか、それとも彼の真の個性の強さによるものなのか、判定するには材料が少なすぎた。それに、彼の率いるシモン・ボリバル・ユース・オーケストラという団体も、その活動は称賛されるべきものであるとはいえ、演奏自体の評価とは無関係な「物語性」が強くて、客観的な判断をしにくくしている。
 それやこれやで「もう少し様子を見たい」と思っていたのだが、どうやら音楽界の潮流は恐ろしく速く、東亜の孤島のマニアのことなど待ってくれないようだ。どういうことかというと、今年26歳のドゥダメルは秋からスウェーデンのエーテボリ交響楽団の首席指揮者に就任、さらに2009年からはロスアンジェルス・フィルの音楽監督になるという。ヨーロッパでも各所に顔を出し、あっという間に「EURO LIVE SELECTION」で4晩特集できるほど音源が集まってしまった。
 少なくとも、その東奔西走の活躍ぶりが本物であることだけは確かである。では、真価は如何。今月の放送で確かめてみたいと思う。

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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