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音楽コラム「Classicのススメ」


2008年06月/第57回 フルネとベルティーニのこと

 今年は、ジャン・フルネの生誕95周年であるという。
 2005年12月、東京都交響楽団を指揮して引退コンサートを行なったフルネが初めて日本にきたのは、1958年のことだった。ドビュッシーの歌劇「ペレアスとメリザンド」の日本初演を指揮するためである。
 いまからちょうど50年前のことで、存命の指揮者のなかでは、もっとも早い時期の来日経験をもっている。
 興味深いことに、同じく都響に縁が深いベルティーニも、最初の来日は1960年にイスラエル交響楽団とのツアーだった。つまりある時期までの都響には、最古参の来日経験をもつ指揮者二人が、ならんで登場していたのだ。が、2005年3月にベルティーニが急逝、同じ年にフルネも引退して、もはやその指揮姿を実演で見ることはできなくなった。
 さいわいどちらもそれなりの量の録音を残しているから、かれらの芸術が虚空に消えてしまったわけではない。二人と都響とのライヴ録音も、フォンテックから発売されている。芳しい叙情性をたたえたフルネ、鋭利な緊張感にみちたベルティーニと、芸風が対象的なのも面白い。
 今月の「ニューディスク・ナビ」では、フルネの都響とのライヴ録音、ベルティーニとケルン放送交響楽団とのライヴ録音と、偶然にもここでも二人の名がならぶことになった。日本で長く愛された両者の指揮ぶりを、楽しんでいただければと思う。

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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