音楽コラム「Classicのススメ」


2008年09月/第60回 ラトルとベルリン・フィルの6年

 サイモン・ラトルがベルリン・フィルを初めて指揮したのは1987年のことだから、カラヤン時代の終わりごろである。
 まだ32歳の指揮者は、定期演奏会でマーラーの交響曲第6番「悲劇的」を演奏してそのデビューを飾ったのだった。このときの成功ぶりはベルリン・フィルの自主製作盤に聴くことができる。それ以来、客演を重ねるようになり、1999年に行なわれたアバドの後任を決める楽員たちの投票により、2002年からの新しい芸術監督に選ばれたのだった。
 芸術監督の就任披露演奏会ではまたしてもマーラーの作品が選ばれ、交響曲第5番が演奏された。ラトルとは長いつきあいのEMIレーベルはこれをライヴ録音して発売し、それから最新録音の幻想交響曲まで、オペラも含めて20点を超すCDが発売されている。
 就任直後の一、二年はなぜか新録音が出てこなかったが、その後は堰を切ったように、コンスタントに発売されている。
 冥王星が惑星から外されたのとほぼ同時にホルストの「惑星」、それもマシューズ作曲の「冥王星」や小惑星などの新作を加えた盤が出て、ベストセラーになったのは記憶に新しい。ハイドンの交響曲集では、ノリのいい演奏のために思わず聴衆がフライングで拍手してしまった演奏と、それと同じ楽章の拍手なしの演奏との2種類をいれるなど、遊び心の嬉しい工夫も行なわれている。近代と現代の音楽では鋭利に、ロマン派音楽では堂々と、作曲年代でスタイルを鮮やかに変えるのもこのコンビの特長だ。その躍動ぶりを、就任以来の全録音に追ってみよう。

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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