音楽コラム「Classicのススメ」


2008年10月/第61回 ゲルギエフ、世界を征く

 ゲルギエフの名が広く知られはじめたのは、1988年に35歳の若さでロシアのマリインスキー劇場(キーロフ劇場)の芸術監督になって以来のことだから、今年でちょうど20年ということになる。
 その直後にソビエト連邦が解体され、新体制が始まったが、社会的、経済的混乱を受けてロシア音楽界も激動の時代となった。そのなかでいちはやく基盤を固め、組織を活性化して大躍進したのが、ゲルギエフ率いるマリインスキー劇場であった。
 それ以来、ゲルギエフのスタミナは尽きることを知らない。マリインスキーばかりにとどまることなく、その活動範囲は広がるばかりである。オランダのロッテルダム・フィルとの密接な関係も20年に及び、同地では自らの名を冠したフェスティヴァルも開催してきた。
 このように日常の演奏に加えて、音楽祭のような集中的活動を好むのはこの指揮者の特徴の一つで、ほかにサンクトペテルブルクの「白夜の星」音楽祭、フィンランドのミッケリ国際音楽祭など数々の音楽祭を創設、取りしきっている。
 今年の11月末から12月にかけて、東京のサントリーホールで行なわれる「プロコフィエフ・チクルス」も、そうした音楽祭的活動の一つといえる。演奏するのは、昨年から率いるロンドン交響楽団。
 10月の「ウィークエンド・スペシャル」では、ロッテルダム・フィルやロンドン交響楽団とのライヴ録音を中心に、その野性的なカリスマぶりをたっぷりと楽しんでいただこうと思う。

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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