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音楽コラム「Classicのススメ」


2010年02月/第77回 ティーレマンの「指環」

 

 ティーレマンは2006年からバイロイト音楽祭で「ニーベルングの指環」全曲の指揮を担当しているが、その2008年の上演が14枚組のCDで発売された。
 ドイツ指揮者界に久しく途絶えていた、骨太で重厚な音楽を聴かせてくれる指揮者として、ティーレマンへの期待は大きい。そして今回の「指環」全曲盤は、その期待に十二分に応えてくれるものである。
 スケールはきわめて雄大で力強く、劇性も叙情性も、それが求められるところでは存分に発揮される。これまではクライマックスのつくり方がうまいとはいえなかったティーレマンだが、この演奏ではその弱点が克服され、解放感と達成感に不足することはない。50歳前後にさしかかったティーレマンは、本当の意味で、ついに巨匠指揮者への道を昇りはじめたといえるだろう。
 それから、このCDの大きな魅力は、音質がきわめて優れていることだ。豊かな音場感と、まろやかに溶けあって歌手の声を絶対にかき消さない、バイロイトの祝祭劇場ならではの音響バランスによる、刺激的にならない美しい響き。この音響を聴いているだけで、気持ちよく酔えるほどだ。本来はDVDメーカーであるオパス・アルテが、あえて音だけのCDで発売した理由が、聴けば聴くほどよくわかるのである。
 今月の「ニューディスク・ナビ」の第1週は、特別編としてこの「指環」を中心に、ティーレマンのこれまでのCDをまじえてお送りする。その「巨匠への軌跡」をたどっていただければ幸いである。

 

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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