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音楽コラム「Classicのススメ」


2010年05月/第80回 ハルモニア・ムンディの充実

 フランスのマイナー・レーベルのCDが面白いといわれだしてからかなりたつが、その傾向はますます強まっているようだ。
 特に充実しているのは、ハルモニア・ムンディである。現在では残念ながら、国内盤化されるのはそのごく一部にすぎないのだが、現代の演奏の潮流をしっかりととらえた、すばらしい演奏が次々と出ている。今月の「ニューディスク・ナビ」で紹介するシュタイアーのゴルトベルク変奏曲と、イザベル・ファウストの無伴奏ヴァイオリン曲集という2種のバッハなどは、その代表格である。
 前者の豊麗で多彩な、しかし虚飾のない、スケールの大きなチェンバロ演奏はおどろくべきものだ。シュタイアーにはフォルテピアノによるモーツァルトなどで意表をつく仕掛けをする人、というイメージが日本では生れてしまったが、このバッハは創意にあふれつつも正攻法の解釈で、広がりを感じさせてくれる。一方ファウストの演奏は、渋くてコクのある響きでひきつけ、同時に弾力のあるリズムで舞曲としての特性を印象づけてくれる。どちらも呼吸感が豊かで、音楽の大きさを自然に提示している。
 これ以外にも新進のフォルテピアノ奏者のベズイデンホウトのモーツァルトのソナタ集、中堅のトリオ・ワンダラーが俊英ヴィオラ奏者のタムスティと共演したフォーレのピアノ四重奏曲など、爽快で新鮮な息吹を感じさせてくれる新譜がならんでいる。
 アメリカ風の大量消費社会のシステムで考えると、現代のクラシックは衰退の一方のように思えるかも知れないが、実演と同様CDでも、このハルモニア・ムンディを代表に、すばらしいものは日々生れているのである。
 

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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