音楽コラム「Classicのススメ」


2011年7月/第94回(最終回) 危機に立つオーケストラ 

 東日本大震災のあと、文化や芸術とは何か、ということを考える機会が増えているのではないだろうか。
 人間が生存するために、絶対に必要なものというわけではない。人の心を豊かにし、生きる喜びを与えてくれることもあるけれど、全員が同じように感じるわけではない。クラシック音楽も、好きな人もいれば、ほんの少しでも聞かされるのは勘弁、という人もいる。そもそもそれ以前に、多くの人が聴きたがるようなものなら、商売として成り立つはずで、補助金がなければできないのはおかしい、という考えの人もいる。
 こうした状況を象徴するようなオーケストラが、いまアメリカと日本にある。一つはフィラデルフィア管弦楽団。4月に破産を申し立て、大きなニュースになった。
 完全民営が原則のアメリカでは交響楽団の破産や解散はけっして珍しくないが、フィラデルフィアほどの名門となると、例がない。かれらはストコフスキー、続いてオーマンディに率いられた時代には、アメリカ最高の豊麗な響きで人気をほしいままにした。その歴史を誇る団体にして、この苦境を迎えたことは、アメリカの市民社会におけるオーケストラの存在の難しさを如実に物語っている。
 もう一つは、被災地の東北を拠点とする、仙台フィル。被災地においてクラシックを演奏することがどのような意味を持つか、これからその真価を問われることになるだろう。
 どちらも、事態は容易ではない。しかし、必ず力強く乗りこえてくれると、信じている。
 「CLASSICのススメ」は、今回で最終回です。長らくのご愛読、本当にありがとうございました。


山崎浩太郎(やまざきこうたろう)

1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
山崎浩太郎のはんぶるオンライン

★「クラシックのススメ」は今回をもって終了となります。ご愛読ありがとうございました。