音楽コラム「Jazzのススメ」


2005年05月①/第09回 “スタンダード曲"をいろんな演奏で聴こう

さて、本日はサービス・デイである。我が皆さんに取っておきのサービスをしようというのである。私も安い給料でよくやるよ。
ジャズの秘伝をお教えしようというのだ。これさえ実行すれば死ぬまでジャズを愛し続けてゆけるというメソッド。
大抵の人は途中でジャズから去っていってしまう。せっかく1,000人、2,000人に一人という狭い門をくぐり抜けて目出度くジャズ・ファンになったというのに。

スタンダード・ソングを100曲憶える。これである。何だ、誇大前宣伝のわりには大したことねえな、と言わないで欲しい。
スタンダードを100曲憶える。たったこれだけのことだが、このことをこれまでに私のように表立って発表した人がいるだろうか。
そんな愚かな奴いるわけないだろ、だって?
まあ、そうかもしれない。しかし、これからのジャズ界は愚か者が必要なのよ。ジャズ文化が成熟して皆リッパでもっともらしいことしか言わなくなった。だからジャズがつまらなくなったのだ。大体ジャズっていうのは愚か者の音楽なんだから。利口な人はクラシックを聴けばよろしい。

さて、100曲。有名曲を100曲。
旋律通りに憶える。これが先決である。

ということはジャズの演奏を聴いたのでは駄目だ。ジャズは「くずしの音楽」だから。まず普通のミュージシャンは作曲された旋律のまんま演奏することはない。
ではどうしたらいいか。ヴォーカルがいい。ヴォーカルを好きになることがジャズ・ファンへの近道である。

それともう一つ。例えば、ジャッキー・グリースンみたいなストリングス・オーケストラを聴いたらいい。

今日は秘伝伝授の日であるから遠慮なく私のほうも宣伝をさせていただこう。
5月20日に東芝EMIから発売されるテラシマ・コレクション10枚の中に入っているジャッキー・グリースン、ネルソン・リドル、サム・ドナヒューの3ストリングス楽団。
これらの中にこれさえ憶えればという美味しいスタンダードが、数えてみたら38曲も入っている。もうこれだけで4割方クリアーできている。それに、男性ヴォーカルのボブ・マニングを加えれば、いやはや立派に50曲。
これで感謝と感謝の大交換会が成立したわけ。せちがらい世の中、時にはこのように上手くゆくものなのである。

さて、スタンダードの旋律を憶えた。いよいよ、ジャズで演奏されたスタンダードを聴いてゆく。
本日ご紹介の「a列車でゆこう」。最初に元祖家元のデューク・エリントン楽団で聴いてみよう。スイング・ガールズでもいい。
次にすかさずジャケットで展示されているデイブ・ブルーベック四重奏団に耳を傾ける。

すると、来るのである。驚き、が。
こ、こ、こんなに違うのか。ジャズの演奏におけるスタンダードのあしらいはまるでこんなに異なったものなのか。
こりゃクラシックやった人がたまに飽きてジャズの世界に飛び込んでくるわけだわ。あなたはきっとこんな風にたまげることだろう。
デイブ・ブルーベック・カルテットの演奏。ただもう、ひたすら「恰好いい―」なのである。明治・大正時代の人が急にNYの摩天楼を見ちゃったようなものである。
驚きを満喫するためには、そうです。「a列車でゆこう」の旋律を旋律通りに素直にようく知っておく必要があるのはもうおわかりだろう。
知って何度もたまげてしまうと、あなたは面白くなってもうジャズから離れられない。
次々にたまげたくてCDに触手を伸ばしてゆく。
死んでも死に切れないのである。

寺島靖国(てらしまやすくに)
1938年東京生まれ。いわずと知れた吉祥寺のジャズ喫茶「MEG」のオーナー。
ジャズ喫茶「MEG」ホームページ