音楽コラム「Jazzのススメ」


2008年11月/第58回 色気とは何ですか

 裸の放浪画家と云われた山下清は素朴な質問を連発したことでもあ知られています。「色気とは何ですか」は、その代表的な質問ではないでしょうか。

 PCMジャズ喫茶では店主の寺島靖国さんの独断でゲストをスタジオに呼ぶことになりました。ゲストの1人、山中千尋さんが2度目に現れた時、寺島さんが最初に突然質問したのは「男の色気って何ですか」どうやら70歳に突入した寺島さんが男の色気を気にする事件があったらしい。あたまの回転が速い彼女は「状況によってちがいます」と答えをはぐらかしたのです。この辺のやりとりは放送で聴いて下さい。

 色気を広辞苑で引いてみると「色情」「愛嬌」「性的魅力」「欲求」とありました。女性が感じる男の色気と男性がひかれる男の色気は違うかもしれません。男の嗅覚からすれば映画の「高倉健」野球の「イチロー」将棋の「羽生善治」などにセクシーな雰囲気がうかがえます。落語の世界で男の色気は「眼病男」と「風邪ひき男」です。ついでに「色香」は「女のあでやかな容色」で男には使えない言葉であることも分かりました。竹久夢二の絵に描かれた女性からは「色香」が漂ってくるではありませんか。

 幻想の色香ではなく本当の色香といえば体臭です。動物的には異性を惹きつけるために体臭は存在するらしい。人の場合それを隠すために香水が発明されたといわれています。しかし安物の香水でそれを誤魔化すというのは男にとって寂しいかぎりです。男をその気にさせるのも女性の体臭でその代用品とも呼ばれているのに「じゃ香」があります。ジャコウ鹿の嚢から製した香料で油性の固形で売られています。これぞ媚薬中の媚薬です。

 さて今回の放送の前に寺島さんが考えたのはミュージシァンいじめの試聴です。山中千尋さんにブラインドで数枚のピアノトリオのCDを聴かせてから彼女の感想を聞くという試みでした。彼女を磔にして楽しもうという寺島流の仕掛けです。その顛末も彼女の笑いとともに期待して下さい。

 ジャズヴォーカルの評価の一つが色気であることは放送でもよく話に出ました。ヴォーカルに限らず楽器それぞれにも色気を感じることを発見したのです。楽器の音色に色気が有るか無いか。実はこれが特定の楽器の音に虜となる理由の一つかもしれません。楽器で多彩な色気を発散するのはピアノでしょう。クロード ウイリアムソンがそうです。実はベースやドラムスも色気を放って

います。例えばベースではスコット ラファロ、ドラムスならジェフ ハミルトンにそんなオーラを感じます。

 ジェフ ハミルトンはウエストコーストの代表的なドラマーで、今これほどスィンギーなスティックさばきができる人は他にいないと山中千尋さんが断言しました。ダイアナクラールの「ライヴ イン パリ」DVDの映像では彼の素晴らしいブラシワークが見られます。

 ブラインドの試聴も最後となりジェフ ハミルトントリオのアルバム「the best things happen...」Azica Recordsから曲「POINCIANA」を彼女に聴いてもらいました。これにすっかり感激した彼女はこのCDを探して買いたいというのでした。

長澤 祥(ながさわ しょう)
1936年生まれ。オーデイオメーカー数社を経て、日本オーデイオ協会事務局長を15年務める。