2005年01月②/第02回 “オーディオ快感"をジャズで体感
さて、諸君、今回もこのページに目を止めてくれてありがとう。前々回は見当たらずさぞ寂しい思いをしたことだろう。陰謀なのだ。この雑誌の編集者の。私だって悲しかったぞ。
さて、今回はオーディオの話とゆこう。
おっとっと、早くも逃げようとするあなた。待ちなさい。大事なんだよ、オーディオっていうのは。
ライブは舞台から音が聞こえてくる。
オーディオはスピーカーから音が流れる。同じなんだ。要するに出来るだけいい音でCDを聴こうっていうのがオーディオ。
ところがオーディオ雑誌っていうのは位相だ定位だと専門用語をふりかざしてくる。無視、無視。そんなの評論家の自己満足。テクニカル・タームを使わずに音の本質そして楽しさを伝えるのがアンタたちの役目だろう。エッ、文句あるか、なんて私なんかはついけんつくを喰わせたくなってくる。
それはさておき、ジャズの音でいちばんわかり易いのがドラムの音だということをまずお伝えしよう。
ついでに言うと演奏の上手下手のわかり易いのもドラムという楽器。ドラマーは大変だ。
ジャズ・ファンだったら誰だっていい音で聴きたいのがシンバルだろう。クラシックにもない、ロックにもない、シンバルの規則的な連打こそジャズの特質である。これがジャズの最も美味しいところの一つ。
それからその規則的な右手の連打に合わせてドラマーの叩く不規則な左手のスネア・ドラムもまた大きな魅力。
さらにその規則的と不規則的の微妙な交錯がジャズの最大魅力と申し上げたい。――交錯と言うか愛憎。
しかし、こんな話を得意そうにしていると今度は私がけんつくを喰わされる番になってしまう。
今回のCDでは近頃最も微妙な交錯を天才的に行うブライアン・ブレイドをご紹介しよう。
CDをお買いになったら迷わず・のボタンを押してくれ。リーダー、北川潔のオリジナル曲で「Time to go 」。
ピアノ・トリオながらピアノは現れず、ドラムとベースがヨーイ・ドンで走り始める。この二人駆けっこがまたジャズの魅力点の一つなのだが、問題はその音。ドラムの音。スネア・ドラムの音。
「コーン」と弾けるのだ。これが滅茶苦茶気持ちいいのだ。単なる「コーン」ではなく、その内部にマグマのようなエネルギーが詰まっている。
だから「コーン」という音が出るとまわりの空気が思わず振動しなくちゃいられなくなるわけ。で、震える。
「コーン」という音と同時にこの震える空気をあなたに聴いてもらいたいのだ。これがオーディオの快感と言わずしてなんと言おう。
オーディオ用語で「空気感」と称する。これはわかり易い。これなら許せる。
ケニー・バロンのピアノも青いサファイアのようだ。「君は変わったね」などという絶妙のバラードも入っている。しかし私にとっての最大の聴きどころはなんといっても「Time to go 」の出だしの数小節。これに尽きるのだ。
寺島靖国(てらしまやすくに)
1938年東京生まれ。いわずと知れた吉祥寺のジャズ喫茶「MEG」のオーナー。
ジャズ喫茶「MEG」ホームページ