音楽コラム「Jazzのススメ」


2010年10月/第81回 いまイタリアのジャズが熱い!

 最近ヨーロッパのジャズが人気を博しているようだが、僕はイタリアのジャズにいちばん魅せられている。 

 イタリアのジャズが素敵なのは今に始まったことではない。もともとアメリカのジャズ界で活躍してきた白人ミュージシャンで、数の上でも実績の上でも一番際立っていたのはユダヤ系とイタリア系のミュージシャンである。ヴィド・ムッソ、チャーリー・マリアーノ、アート・ペッパー、バディ・デフランコ、トニー・スコット、フランク・ロソリーノ、パット・マルティーノ、ジョー・ロヴァーノなど、いくらでもイタリア系の名前が思い浮かぶ。歌手ともなれば、イタリアは歌の国だから、フランク・シナトラ、トニー・ベネット、ペリー・コモ、ヴィック・ダモーン、ディーン・マーティン、コニー・フランシス、ジョニー・ジェイムス、ロバータ、ガンバリーニと数えきれない。

 ところが、このところイタリア本国でもジャズメンの活躍が目立ってきたのだ。ポニー・キャニオンなどはイタリアのレーベルと契約して次々にイタリアン・ジャズを発売している。もともとイタリアはクラッシックにおいても傑出した音楽家をたくさん輩出しており、音楽的水準の非常に高い国なのだ。ジャズのレベルが高いのも当然だと思う。

 最近のイタリア・ジャズでいちばん感心したのは、2年前に出たハイ・ファイヴの「ファイヴ・フォー・ファン」だった。ホーン入りのクィンテットというのも嬉しかったし、メンバーの中ではなんといってもトランペットのファブリッツィオ・ボッソが凄い。いまアメリカのトランぺッターたちを抜いて世界一のトランぺッターと言っても過言ではない。グループのサウンドは「ネオ・ハードバップ」といえばいいだろうか。ハード・バップ期や新主流派時代のナンバーに新しい生命を吹き込み、さらに自分たちのオリジナルも演奏するというグループなのだ。

 そして、今度このグループの新作「スプリット・キック/ハイ・ファイヴ」が出た。これがまた前作を上回るスマートで、しかも熱い演奏なのだ。なんとハードバップを最初に推進したホレス・シルバーのオリジナルを3曲も取り上げている点に感心した。特に僕はアルバム・タイトル曲「スプリット・キック」に心が躍った。

 僕にとってこの曲には忘れられない思い出がある。この曲はアート・ブレイキー・クィンテットの有名なアルバム「ナイト・アット・バードランド」で演奏されているナンバーだが、僕はこの曲の演奏をほぼリアル・タイムで聴いている。まだ四国の松山にいた頃、多分55年頃だろう、南海放送が試験電波を出しはじめていて、友人のいる局の資料室を訪ねたところ、ブルーノートの25センチ盤が何枚かあり、セロニアス・モンクやミルト・ジャクソンとともに、このブレイキーの「スプリット・キック」を聴いたとき、従来のビバップとは違う、何か新しいサウンドの誕生を感じ胸がときめいたのだ。従来のバップと違って、とてもメロディックな曲のテーマにも驚かされた。今振り返ると、この曲の演奏こそがバップとハードバップの境界線上にあった曲であり、演奏であることを知るのであった。

 ハイ・ファイヴが今改めてこの曲を取り上げたのは、このグループがメロディックな演奏をめざすことを宣言したとも言えるわけで、その行き方に僕は共感したのだ。

 さっそく番組に持ち込み、かけようとしたが、寺島氏はオリジナルの「サッド・デイ」をかけることを主張した。だが僕は「スプリット・キック」に固執し、この曲をかけた。

 それでよかったのだ。この曲こそ今回のこのグループの主張だと思うからだ。ボッソのトランペットも凄いし、いまジャズ界でいちばん魅力のあるコンボはこの「ハイ・ファイヴ」なのだから。

 

岩浪洋三(いわなみようぞう)
1933年愛媛県松山市生まれ。スイング・ジャーナル編集長を経て、1965年よりジャズ評論家に。
現在尚美学園大学、大学院客員教授。