第32回 《ジュノーム》の意味
問題なのは、そうした曲のタイトルをどう日本語にするかである。「交響曲第1番」などなら苦労はないが、凝った標題だったりすると大変だ。ただ直訳すればいいというものではないからである。
二重の意味があったり、北欧の作曲家なのにわざわざドイツ語を使っていたり、単純でないものが多いので難しい。原語をただ機械的にカタカナ表記するのが最近の流行だが、それでいいのかという思いが残る。
この問題はいつの時代も変わらないようで、石井宏さんによると、昭和前半にある高名な評論家がモーツァルトの《ジュノーム》協奏曲を評して「ジュノームとはフランス語で『若い人』の意味で、その名のとおり若々しい音楽です」と書いたそうだ。
しかしこの曲の場合の「ジュノーム」は、ある女性ピアニストの姓にちなんでいる。つまり人名だから訳してはいけないのである。それをわざわざ訳して解説してしまい、後世に失笑を買うことになったわけだ。
とても人ごととは思えない「怪談」だが、今回の《ジュノーム》協奏曲にかぎっては、「若い人」と訳しても間違いでないかも知れない。1970年生れのアンスネスに67年生れのギルバート、オーケストラも若手中心。
特にアンスネスの瑞々しい感性は、まさに「ジュノーム」ならではの音楽である。
山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963生まれ。「レコード芸術」を始め、音楽雑誌、CDのライナーなどで活躍中。クラシックの演奏史の中に現代を位置づける活動を行っている。最近特に海外盤に目立ついわゆる「ヒストリカルもの」(放送局のライブ音源をCD化したものやSPやLPの時代の録音のCD化)には滅法強い。
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