<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第106回/金銀コロイド液のおかげで[村井裕弥]
2013年、古河電気工業がPCOCC(単結晶状高純度無酸素銅)の生産を終了。PCOCCを導体として採用していたケーブルメーカーは、おおよそ1年間をかけ、代替品を探した。
その結果たどり着いた結論は、
○C1011 塩田電線
○PC-TripleC サエク、アコースティックリヴァイブ
○HiFC ゾノトーン
○102SSC オヤイデ電気
このあたりの詳細は、2014年の『Stereo』誌10月号に書いたので、バックナンバーをお持ちの方はぜひ再読していただきたい。
あのインタビューから1年以上が経過し、店頭に並ぶ製品は、多くが「PCOCC以外の導体」となった。ざっくり語ると、以前よりハイファイ臭さやわざとらしさが後退し、よりナチュラルで伸びやかな音になった。
ベテラン・スポーツ選手の引退が近付き、「あの選手が引退したら、チームはむちゃくちゃになってしまう」と皆があせっていたら、引退の翌年ルーキーが急成長し、穴を埋めるどころか、かえって戦力アップした。それに似た展開だ!
『Stereo』誌に書いた個々の製品評は、
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『Stereo』2014年10月号
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Music Strada #211に、フルテックの手頃な金メッキプラグを付けてみた
Music Strada #211の新製品情報(クリックして拡大)
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これらをお読みいただければ、「PCOCC以後の世界」がいかに明るく、希望に満ちているか、おわかりいただけるだろう。
今月は、そんな明るい未来に向かって進むもう1つのケーブルメーカー、ナノテック・システムズを紹介したい。撚り線に、金銀コロイド液(電気の流れをよくする液体)を染み込ませ、それによって音質改善をはかる、おそらくは世界でも唯一のメーカーだ。
ピンケーブルから電源ケーブルまで、様々な価格帯の製品を世に出しているが、興味深いのは先にあげた5社と違って、OFC、HiFC、PC-TripleCを製品によって使い分けているところ。
昨年暮れに出た線材Music Strada #211は、2芯シールド線。0.12ミリ径のPC-TripleC導体7本を撚り合わせ、それを0.32ミリ径のPC-TripleC導体6本で取り囲むような構造になっている。ここに金銀コロイド液が塗られていることは言うまでもないが、金95%、銀5%の黄金比でブレンドされているところがミソ。
これがメーターあたり4,900円(税別)だから、ちょっと高級なRCAプラグを組み合わせても、1メートルペアが2万円くらいで自作できるはずだ。
自宅試聴は、まずD/Aコンバーターとプリアンプの間でおこなった。「見通しがよくなったな」というのが第一印象。神経質な高解像度(暴き立て型)ではなく、まろやかで味わい深い音なのだが、ダンゴ状に聞こえがちなオーケストラ録音が程よく分離する。だから「ほう。このオケは、こんなにもひとりずつの技量が高かったのか」と感心させられてしまう。いわゆるヴェールを何枚か剥ぎ取った音? いや、ちょっと違う。これまで影になっていたところにも、まんべんなく照明を当てて、ちゃんと見えるようになった。そういう変化だ(この照明が明るすぎないところもうれしい。ギラギラ・テカテカした音は苦手なのだ)。
刺激感・歪み感がないから、思い切って音量を上げたくなる。これは同社製品に共通して言えることだが、Music Strada #211もそのツボは外していない。
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D/Aコンバーターとプリの間はそのままにして、プリとパワーアンプの間もMusic Strada #211にしてみた。すると「スピーカーの振動板が軽くなったのでは」と思うような変化が起きた。「パワーアンプの駆動力が増したかのよう」と言ってもよい。そのため、聴感上のDレンジが拡大。音楽の抑揚がより大きくなったようにも聞こえる。この伸びやかさは実に貴重だ。
ちなみに、同社製2芯シールド線は、まず切り売りケーブルとして世に出て、数か月後プラグ付の完成品が発売される。Music Strada #211もおそらくそうなるであろうから、「不器用なので、自作は無理」という方は、その日をお待ちいただきたい。
(2016年1月20日更新) 第105回に戻る 第107回に進む
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