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コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第11回/オーディオとネコ

 子供の頃からネコといっしょに暮らしてきた。自分が赤んぼうの時からいっしょに写真に写っているし、その時々で、いろんなネコがうちに出入りしてきた。そんな自分の人生の中で1年ほどネコがいない時期があった。現在の自宅が建ったのは1992年の12月だが、その前後の時期だ。そして93年の5月に真っ白いネコがやってきた。チロだ。

 チロは最初、1階から見える庭にその姿を現し、続いてちょっと家に入りたそうな表情を見せ、入れてあげようとすると「いえいえ、私のようなものにはもったいないです」といった謙虚な素振りを示した。しかし、3日後には家に上がり、気がつくと家の中で子ネコを4匹、産んでいた。まんまとうまくしてやられたのである。謙虚な姿勢は作戦だったのだ。ことほどさように人間よりも何枚も上手のネコだった。


2007年当時のチロ。後ろに写っているのは、
自作した4ウェイマルチのスピーカとアンプ類。

 チロは後ろ脚の1本が悪く、ひきずって歩いていたが実に美猫で、そこらのオス猫に人気があるのはもちろん、知らない人からも「あら、きれいな猫ね~」とよく声をかけられたものだ。また、人が来ても犬が来ても動じない気位の高さというか自信を持っていた。何か人間に対して怒っている部分があってその理由についてうちの人間たちは、もともとお金持ちの家で飼われていた血統賞付きのネコだったのが、脚が悪くなっただけで棄てられたためではないかと推測。その貫祿には世の中のさまざまなものを見てきた風格があり、「海千山千」をもじって「海千チロ千」と言ったり、その真っ白な風貌から「モノノケ姫」とも呼んでいた。


聴くチロ

 ある時、2階のオーディオのある部屋で音楽を聴いていたら、チロがたまたまやってきた。いっしょに音楽を聴いていたところ、左右のスピーカーの真ん中あたり、センターのボーカルの音像が浮かんでいる場所を見上げて、耳をそばだてていた時があった。たぶん音像が見えたんだと思う。ホログラフィックな音像定位というやつである。姿が見えないのに人の気配があって不思議だったのだろう。ネコはヒトよりも聴覚が4倍いいそうだし、観察していると、超低域にも超高域の音に対しても反応する。そんな耳のいいネコに認めてもらってうちのオーディオも幸せものである。
 
 そんなチロが5月6日の早朝、息を引き取った。
 家に来てから21年間めの大往生。
 チロが逝く直前から、隣の家の2匹の子猫たちが急にうちの人間になつくようになっていて、どうもこれも残された人間たちを不憫に思って「海千、チロ千」の力で、子猫たちを仕向けたような気がする。

(2013年5月31日更新) 第10回に戻る 第12回に進む

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。ライターの仕事としては、オーディオ、カーオーディオ、クルマ、オートバイ、自転車等について執筆。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)季刊『オートサウンド』ステレオ・サウンド社、月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。オートサウンドグランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員(2012年4月現在)。

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