コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第117回/日暮し、ツェッペリン、ヴェルヴェッツに心揺さぶられた4月 [田中伊佐資]

●4月×日/5月に音ミゾに出てもらう国立の「Sings」のマスター武田清一さんがうちにやって来た。カフェのマスターというより、いま「日暮し」のリーダーという側面が脚光を浴びている。77年の『ありふれた出来事』と79年の『記憶の果実』が昨年初めてCDになり、レコードも複刻されたのだ。
 オーディオファンでもある武田さんは、レコードのカッティングの際に、微に入り細に入り音に対してリクエストしたという。ラッカー盤を自宅のオーディオ(EARで鳴らすJBL)で聴き、生ギターのヌケをもっとよくしてとかベースを強くとか、納得いくまで追い込んだそうだ。だからこのレコードの音は、テープによる往年のアナログ録音の美点(録音は名匠吉野金次)を損なうことなく、うまく現代的にリファインしている。
 うちに来るわけは、いつも自宅で判断しているのでたまには人のオーディオで聴くとどうなのかと思ったからだという。
 さっそく『ありふれた出来事』のA面1曲目「おだやかな午後」(これはホント名曲です)を聴き通すと「うーん、ここはミッドレンジがいいねえ~」と一応ほめてくれた。しかし高音も低音もたいして出ていなくて、言葉に詰まったときの常套句でもあるので微妙な気分ではある。
 武田さんは、いろんな音楽を聴きたいのでレンジはなるべく広くしているそうで、その結果、中域がここまで厚くないらしい。

 そう言われてみると、何年か前まではハイファイとワイドレンジに身を入れていたが、いつのまにかあまり気にしなくなった。オーディオをチェックするとき、すごい重低音が入っているソフトを使わなくなった。だからといって中域のことばかりが気になる、ということでもない。


5月15日・22日放送「アナログ・サウンド大爆発!」ゲスト出演の武田清一さん(右)と、プロデューサーで元「モップス」の星勝さん(左)

日暮しの77年作『ありふれた出来事』

エア・フォース・ワンと白い箱に収まるクラシック・レコーズのテスト・プレス

 うまく説明できないが、音の肌合いみたいなことが自分にしっくりくるかどうかが、ポイントになっている気がする。それはレコードばかりを買っては聴きを繰り返していることと関係があるのかもしれない。

●4月×日/電源工事の取材(オーディオアクセサリー誌)で、世田谷区のマニア宅に行く。ぼくがずっと気になっていた、しかし買えはしないレッド・ツェッペリンのボックスセットがそこにあった。クラシック・レコーズが2007年に出した45回転48枚組(各タイトルが4枚組)で、いまプレミアがついて何十万円もする。しかもこの方は、これのテストプレスまで持っていた。世界でわずか20セットしかプレスされていない。
 完全に仕事をほっぽり投げて、このテスト盤の『II』を聴かせてもらった。しかもプレーヤーはエア・フォース・ワンだ。

 4人全員の動きがよーく見える。組んでいるスクラムが固い。当然一緒にあったオリジナル盤と聴き比べはしなかったけど、いやいやこれは強力だ。ただ全員が前にガツガツ出すぎる感じがしなくもない。これはやっかみが入っていないといえばウソになるが、そこをどうとらえるかだろう。ぼくとしては、オリジナル盤も45回転盤も両方持っていたいという月並みな答えではありますが。


●4月×日/趣味の獄道、三上剛志さんが突如としてロックに開眼、オリジナル盤をヤフオクで「縦一列買い」したり、月に100万円も使ったりしているというのでヴィニジャンの連載(ステレオ誌)にかこつけて横須賀まで行ってみた。
 ウェスタンの巨大ホーン、JBLハーツフィールド、同4350、同C31、アヴァンギャルドなどで60~70年代のヴェルヴェット・アンダーグラウンドやジミ・ヘンドリックスなどを聴く。それぞれのシステムに独特の貫禄がある。しかしながら、ある種の共通した三上カラーが見えてくるのも事実だ。とかく重量感があふれている。「認めたくない音がある。それを打ち消していくと、同じトーンに収まっていくんだよ」そういうことだった。

 ヴィンテージ・オーディオにはかねがね興味があり、さし当たって、イロハを教えてくださいと乞うとこういう答えが返ってきた。


三上剛志さんとウェスタンのスピーカー

①スピーカーはユニットよりもエンクロージュア。鳴らす板材が枯れているほうがいい。
②やるならフィールド型。スピード感が違う。絶対にフィールド型がいい(2度連呼)
③そしてやるならタンガーバルブ電源。間違いなくタンガーバルブ。(これも2度)

①はイロハでしょうが、②はどう見積もってもホヘト以降ではないでしょうか。③に至ってはなにがなんだかぼくにはわかりません。

(2016年5月10日更新) 第116回に戻る 第118回に進む

田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

音楽出版社を経てフリーライターに。「ジャズライフ」「ジャズ批評」「月刊ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」などにソフトとハードの両面を取り混ぜた視点で連載を執筆中。著作に「オーディオ風土記」(DU BOOKS)「ぼくのオーディオ ジコマン開陳 ドスンと来るサウンドを求めて全国探訪」(SPACE SHOWER BOOKS)がある。

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