コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第12回/4.2gの奇跡




 ステレオ誌で連載している「ヴィニジャンの壺」でモノラル・カートリッジを試す機会があった。
 ぼくはモノ盤をさほど持っているわけではないので、ステレオ針でもまあいいかと目をつぶってきたくちだが、そのときビートルズのモノ盤を聴いたのはまずかった。そのまま放っておくわけにはいけない音だった。大げさにいうなら、「あれはよかったなあ」とこれからの人生を未練がましく歩みたくない気持ちになった。まったく当たり前の話だが、モノラル盤を聴くならモノ・カートリッジに限るわけだ。
 ということで、試聴して最もロック的な爆発力があったフェーズメーションのPP-Monoを手に入れた。

 
 その件とはまったく別に、鎌倉にあるViV laboratoryのリジッド・フロートというアームを去年の夏に1本追加している。このリジッド・フロートは、プレーヤーを加工する必要がなく横にポンと置くだけでセットできる。しかも軸をオイルが入った壺に浮かすという仕組みが利いているのか、情報量の多いモダンな音がする。




ViV laboratoryのリジッド・
フロートに装着した山本音響
工芸製のチタン製シェル
HS-5Sとライラのスタレオ・
カートリッジ、タイタン



 なので、新加入のモノ・カートリッジを以前から持っていたサエクのアームに付け、リジッド・フロートにはライラのステレオ・カートリッジをはめるという使い分けで、すべてが一件落着となるはずだった。しかし。
 
 
 サエク・アームへ久しぶりにフォノケーブルを差し込むと、カチッとくる感触がない。よく見たらプラグ内のパーツにいつのまにかひびが入っていた。
 古いものなのでパーツ探しも時間がかかる。当面はリジッド1本でいくしかない。ユニバーサル型アームなのでカートリッジは付け替えられる。
 といってもスポッと抜いてスポッとさして針を落とすわけにはいかない。そのたびに針圧調整が必要だ。これはあかん。面倒だ。それにぼくならいつか針を折ってしまう気もする。

 
 ここで神業のプランが持ち上がった。ステレオのライラ(10.5g)とモノのフェーズメーション(14.7g)をシェルによって同じ重さに揃えるのである。これで針圧調整が不要になる。両カートリッジの重量差は14.7-10.5=4.2g。その数字だけ重量差があるシェルを付ければうまく釣り合うという計算だ。
 ネットで各社のシェルを調べてみたがすぐにやめた。ぜんぜん合わない。机上の空論すら成立しない。

 








山本音響工芸HS-6Sに装着された
フェーズメーションのモノラル
・カートリッジPP-Mono

 

 さらにいえば、ライラに組み合わせている山本音響工芸製のチタン製シェルHS-5Sはかなり気に入っているので外す気にならない。単純に4.2gほど軽いシェルが同社から発売されれば最高だが、そんなの無理に決まっている。

 

 と思っていたら、まさかのことがおきた!

 
 HS-5S(18.4g)を軽量化したHS-6S(14.2g)が発売される。その差はなんとかっきり4.2g!。すごいぞ。あり得ない。まるで特注品じゃないか。雑誌の試聴用に借りてみたところ、針圧だって両方ともばっちり適正範囲内に収まった。

 

 つい先日、友達がうちにやってきて、カートリッジを電動歯ブラシのようにパパッと付け替えてレコードをかけたら
「え、そんなに簡単に変えちゃって大丈夫!?」とびっくりしていた。
「ま、だいたいで大丈夫でしょ。アナログだし」と格好をつけて悠然ぶってみたが、本当は4.2g差の奇跡が、それを実現させているのである。

(2013年6月10日更新) 第11回に戻る 第13回に進む 

田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

音楽出版社を経てフリーライターに。ジャズとその周辺音楽を聴きながら、オーディオ・チューニングにひたすら没頭中 。「ジャズライフ」「ジャズ批評」「月刊ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」などにソフトとハードの両面を取り混ぜた視点で連載を執筆中。著作に「ぼくのオーディオ ジコマン開陳 ドスンと来るサウンドを求めて全国探訪」がある。

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