コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第128回/島村さんちのオーディオ[鈴木裕]

 くにみっちゃんは、鈴木裕の母親の姉の息子、つまり自分の従兄弟である。7つ年上で、子供の頃はお正月ごとに会い、大人になるとそこに冠婚葬祭が加わった。たしか今年の正月だったか、くにみっちゃんの中高の同級生にオーディオ好きがいて、高額なオーディオがゴロゴロしているので聴きに行かないかという話をされた。値段はともかくとしてオーディオが好きそうな人なので、先日、聴きに行ってきた。 
 同級生は島村さんという人で、東松山の小高い丘の上にその家はあった。オーディオのある部屋はいわゆるAVルームではなく、居間とダイニングルームだった。以下、オーディオの紹介をしようと思うのだが、わかる限りのその値段を入れていってみよう。といっても、定価が変更されたりもするのであくまで参考ということでお願いしたい。


右側には観葉植物、センターにクレルがあるがそんな小さなことには気にならない。


リン、マークレヴィンソン、ブルメスター。

ダイニングルームのソナス・ファベール。こちらは食事用なのですっきり鳴らしている。


 メインのスピーカーはパイオニアEXCLUSIVE 2401(1台120万円×2)とJBLのS9500(1台220万円×2)が並んでいる。食事をする部屋にはソナス・ファベールのアマーティ・オーマージュ(ペア330万円)。
 プレーヤーやアンプはたくさんあるのでとうてい全部は紹介できないが、まずパイオニアを鳴らしているのはサンオーディオの2A3(という真空管)を使ったパワーアンプだった(たぶん、SV-TE/2A3PX8 typeT。完成品は一台30万円×2)。この組合せは倍音の響きがきれいな音で低域のコクもある。パワーアンプとしてはパスラボのPASS X350.5 (150万円)も繋ぎかえて鳴らしていて、こちらはまろやかな中高域とよくグリップされた低域。ただし、どちらのパワーアンプにしても音がフォーカスするのは床から40センチくらいの割と低いところで、そのことを伝えると「いつもソファーに寝ころんで聴いているからね」と島村さん。さすがベストポイントに合わせているわけだ。だったらまったく問題ない。

 JBLはマルチアンプ駆動をしていて、チャンデバはクレルのKBX(85万円かな)。高域のコンプレッションドライバー用のパワーアンプはジェフローランドのmodel 5F(250万円くらい)。低域の2発のウーファー用は同じくジェフローランドのmodel 9(500万円くらい)。ちなみにモデル9は本体(40kg)と電源部(60kg)にわかれていて、しかもモノーラルのパワーアンプなので、4つのボディで合計200kgという重量級でもある。こちらの音は高域のコクと抜け、低域の抜けとコクのバランスが良く取れており、特にマッシブな低域が実に魅力的。このスピーカー、鳴らすのがけっこう難しいのだが、さすがの音がしている。
 というか、ふたつのスピーカーで3通りの音を聴かせてもらった時点で、基本的な帯域バランスは全部いっしょで、コクがあるというのも共通。そういう風に鳴らしたくて鳴らしているのが良くわかる。しかも、失礼ながらこれだけ雑然とアンプ類が置いてあって、たいしてオーディオアクセサリー類も使っていないように見えるのに、音の細部を見ようとすると実は分解能も高く、実に高級な音もしている。いやしかし、それが嫌らしくない。さりげなく高級で、さりげなくハイ・レゾリューション。

 ちなみに島村さんにはオーディオの悪い友だちが何人かいて、ここに遊びにきては、たとえばクレルのチャンデバのセッティングを変えてしまうそうだ。「ほら、こっちのがいいだろう」的なことを言い放って帰るそうだが、結局、島村さんはそのバランスが気に入らず元に戻してしまう。
 あるいは測定器を持ってきて計測した挙げ句、音のフォーカスするリスニングポイントが低いのでスピーカーの位置を上げろなどというアドバイスをするらしい。でも島村さんはソファーに寝ころんで聴くのでまったくもって余計なお世話である。スピーカーとリスニングポイントの間に唐突に置かれてしまったクレルのパワーアンプKSA50(80万円くらい)も友達が持ち込んだものだそうだ。

 デジタルプレーヤーも、たとえばエソテリックのP-03D-03にマスタークロックジェネレーターG-01を接続したものとか(合計375万円)、emmラボのトランスポートとDACとか(合わせてとりあえず500万円くらいかな)、スチューダーのA730(95万円)とか、プリアンプもマーク・レヴィンソンのNo.52(390万円)とかSMEの SPL-2HE(75万円)とか、ラックスのC-900u(110万円くらい)とか。あとアナログプレーヤー関係もすごいことになっていて、リンのKLIMAX LP12 (286万円)とか、ロクサンのザクシーズ(200万円くらいだったっけか?)とか、テクニクスのAP-10mk3(25万円)を自作のキャビネットに収めたものとか、トーンアームとかカートリッジはあまりにいろいろあって書き切れない。そもそもメモも取っていないし覚えていない。あっ、フォノイコライザーのひとつ、ブルメスターの100 Phono EQ amplifier(275万円)や、レコードスタビライザーのビギンズのパルテノン(20万円)はさすがに覚えている。いやなに、自分も欲しいだけなので(笑)


アマーティを鳴らすシステム。リンのネットワホークプレーヤー等とソウルノートのDAC、そしてレヴィンソンのNo.23.5。

ごそごそとアンプの繋ぎ変えをする島村さん。

左の上からテクニクス、ラックス、TAD。右側はロクサンとemmラボ。

 そう言えば、使っていないけれどチェロのパワーアンプのパフォーマンス(ペアで500万円くらい)とパレット・プリ(300万円くらいかな)も置いてあった。バレット・プリについては「使っていないと状態が悪くなってしまうので、僕が鳴らしておきましょうか」と思わず自分も悪いオーディオ友だちになりかけたが、「だめです」と島村さん。雑然と置いてあるように見えるが、たぶん島村さんの頭の中では何と何を組合せるとどういう音になるのかかがちゃんと鳴っているのだろう。読書で「積ン読」(つんどく、と発音。本を積み上げただけの状態)も読書のひとつである、という言い方があるがきっとあれに近いのだ。

 それぞれの機械の値段をあえて書き連ねたが、島村さんにとってはどれがいくらとか、新品とか中古とか、新しいとか古いとかぜんぜん関係ないんだと思う。語弊を恐れず書くと、金持ちが金にあかせて高額オーディオを買い集めたのとはぜんぜん違って、好きな音楽を好きな音で好きな体勢で聴く、というのが実にはっきりしていて1ミリもブレていない。いい意味で書くが、島村さん、実にちゃんとした好きもんなのである。オーディオが好きで、音楽が好きで、自分の好きな音がしっかりときっちりと良くわかっている。

 ちなみにもう仕事をリタイヤしていて悠々自適の生活をされているのかと思いきや、現役バリバリである。
 ファッションセンターなんとかという会社のえらい人らしいが、たしかに仕事の疲れを癒してくれる音でもあった。実は家の隣にものすごいオーディオルームを建設中だが、たぶん基本的な音は変わらないんだと思う。もちろん広大な空間にものすごいスケールのサウンドステージが展開するのだろうが、島村さんのことだから帯域バランスとか音のうまみは共通したものになるに決まっている。完成してオーディオが落ち着いた頃にはまた是非聴きに行ってみたい。楽しい半日を過ごさせてもらった。

(2016年8月31日更新) 第127回に戻る  第129回に進む 

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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