コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第131回/スピーカーのセッティングについての、うれしい話[鈴木裕]
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矢印のついているテープの位置が元のセンター |
まず床にテープを貼ってから移動 アンプを置いてあるボードとの間に隙間が生まれた |
ちなみに写真にあるように、まずフローリングの床にテープでマーキングして、そこにボードを移動させ(精度としては、±1mm程度)、続いてレーザー墨出し器を使って、左右のスピーカーをボード上でシンメトリーにセッティング(この精度は±0.2mmを目指している)。こうしたセッティングする場合の要件として、何度でもその状態が再現できるのが望ましいと考えているのは、オートバイのレースをやっていた時の名残りかもしれない。元にも戻せるし、さらにここから別の状態に移行したりももちろん出来る。 |
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左右4センチずつ広げての現在のスピーカー。 |
音は空気の疎密波、つまり波である。波は水でも光でも音でも干渉する。波の高いところどうしが合わさればより高くなり、低いところどうしが合うと低くなる。あるいは、高いところと低いところが合わさるとフラットになる。「いい干渉」というのは、左右のスピーカーから出たふたつの音が合わさった時に本来の波の高さに戻すという意味。そういう状態を、スピーカーを4センチ広げることによってセッティングできたのだろう。なので、小さい音量でも彫りの深い、リニアリティの高い再生音を獲得できた。
ただし、「低音が飽和する」問題が勃発した。まず考えられるのは、中高音は正しかったのに対して、低音の音波の高いところどうしが間違って合ってしまって、この部屋には音圧が高くなり過ぎた、という考え方だ。つまり、低音の干渉はうまくいっていないのではないか、という考え。もうひとつは、干渉自体は正しいのだがコンサートホールで鳴っていた音量感をうちの14畳くらいで高さ2.4メートルの天井高の空間で再現するのは無理なのかも、という考え方。どちらが正しいかわからないし、どちらでもないかもしれない。この問題については引き続き考えていきたい。
とりあえず現状のセッティングでは大音量で聴きたい人にとっては「片側4センチ」広げるのは芳しくない状態、ということになる。これがオーディオの難しいところだ。人によって目指しているところが違う。オーディオ機器違う、部屋違う、聴く音楽違う、耳違う、好み違う、である。だから今回、うちの部屋の横幅は何センチとか、左右のスピーカーの間隔自体は何メートル何センチといったように書かないのは、余計な情報、つまりこれを読んでいる人にとってはむしろ足を引っぱりそうなインフォメーションは意図的に入れていない。
さて、タイトルの件である。これがなぜ「うれしい話」なのかと言うと、もちろん自分にとって音が良くなったのはうれしいが、それ以前に「片側4センチ」というのがどんぴしゃで正解だったことだ。
手を使いつつ思案する貝崎静雄氏 |
カイザーサウンドの貝崎静雄さんと、昨年の初夏あたりから3カ月に一度くらいのタイミングで仕事をしている。北志賀にあるカイザーサウンドのクルマ部門、オートローゼンのガレージやその近くの実験場に行って作業の様子などを取材しているのだが、貝崎さんの実力がだんだんわかってきた。もしかしたら、偏屈な人で突拍子もないことをズラズラとしゃべる人という誤解があるかもしれないが、実際に接して何十時間も話してみるとかなりまともな人である。金儲け一辺倒でもなく、世の中のためという部分もあるし、お客さんの音の好みやオーディオに対する姿勢に対しても柔軟だ。何より、オーディオのセッティング能力や機器開発能力など、この人はもしかしたら本当に天才なのではないかと感じた瞬間が何回もあった。 |
ただし念のため、貝崎さんとは着眼点やものの考え方がぜんぜん違う。そもそも目に見えないものを見ようとする姿勢についての師匠は、NAG S.E.D.の永冶司(ながや・つかさ)さんだと勝手に思っていて、もともとはエンジンやキャブレーターの中の気体の流れや負圧分布のイメージから自分の発想は来ている。流体力学的な発想というように言うとエラそうだが。それがオーディオでどれくらい通用するものなのか、という意味でもまたちょっと面白くなってきた。
(2016年9月30日更新) 第130回に戻る 第132回に進む
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