コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第139回/「マイ電柱」の出水電器が、とことんこだわり抜いたプリ・メインアンプALLION A10[村井裕弥]




 出水電器といえば、オーディオ用電源工事。そして「マイ電柱」。ウォールストリートジャーナルや民放各局の番組(「タモリ倶楽部」など)で取り上げられたおかげであろう。昨秋あたりからはオーディオ関係者でなくても、「ああ、敷地内にオーディオ専用電柱を立ててくれるあそこね」という言葉が返ってくると聞く。テレビの影響力は、いまも絶大? そのため、島元社長は年末も無休で全国を飛び回っているらしい(お客様のお宅を回るだけでなく、電力会社との特別な交渉もおこなうからだ)。

 しかし、出水電器は何もオーディオ用電源工事だけを手掛けているわけではない。ALLIONというアンプブランドを起ち上げ、これまでにT-100、T-125sv、T-200sv(以上プリ・メインアンプ)、S-100、S-200、M-300、S-200II(以上パワーアンプ)を世に送り出してきた。これらの製品は、オーディオ評論家の自宅リファレンス・システムやオーディオイベントにおけるデモ(「音展」におけるダイヤソウルなど)で大活躍。いわば「知る人ぞ知る存在」なのだ。




ALLION「A10」


 そのALLIONブランドが、2017年に10周年を迎えるのだという。となれば、やはり記念モデル。ALLIONの10周年記念モデルだからA10。なんともべたなネーミングだが、覚えやすいことは確かだ。価格は税別120万円。
 しかしこのモデル、最初から10周年用に設計されたわけではないのだという。2008年、ちょうどリーマン・ショックの頃、構想がスタートし「この時期に出しても、売れないだろう」といったん頓挫。再度浮上しかかると今度は2011年の東日本大震災がやって来た!
 こういう話だけ聞くと、「えらく不運なアンプだな」という気がするが、島元社長いわく「おかげで、とことん煮詰めることができたのです。販売価格と発売日があらかじめ決められ、それに縛られて作らざるをえないアンプとは根本的に出来が違う!」。

 ALLION A10よい音の秘密その1。価格や定格出力を考えると、無謀としか思えないほど強力な電源を採用。それも、ただ大きいとか重いとかではなく、平滑回路が持つ根本的な問題にメスを入れた出川式電源をチョイスし、そのメリットをさらに増強するCPM(キャパシター・ポテンシャル・モジュール)も、不釣り合いなほど容量の大きなものを採用。A&R Lab出川三郎氏も、アンプを組み立てる技術者も「そこまでする必要はない」と猛反対したと聞くが、実際聴き比べてみると、大容量CPMのほうが明らかに優る!

 ALLION A10よい音の秘密その2。ヒューズの追放。オーディオ用のヒューズというものが売られていることをご存じであろうか。幾つかのメーカーが、それぞれ工夫をこらした製品を手掛けているが、それらに交換すると、あっと驚くほど音が変わる。ヒューズは、オーディオ機器の必要悪?「だったら、ヒューズの代わりにブレーカーを付けてやれ。これのほうが電気の流れがよく、振動にも強いだろう」ということだ。










ALLION A10の背面。中央に並んでいるバランス入力端子ががセレクタースルーだ

 ALLION A10よい音の秘密その3。セレクタースルー。プリアンプ、プリ・メインアンプには、ふつう入力切替(インプットセレクター)とボリュームが付いている。しかし、この入力切替というやつが意外とくせ者で、アンプ製作者はこれをはずしたくて仕方がないようなのだ(これを省略した製品も実在する)。もちろんその分、音の鮮度は向上。キレや立ち上がりも改善される。
 しかし、いくら音がよくても、1台しか機器をつなげないアンプは使いにくくて仕方ない。というわけで、A10には入力切替をスルーする特別な入力端子と入力切替を通過するふつうの入力端子3系統(アンバランス、バランス、MMカートリッジ用フォノ入力)が設けられている。

 ちなみに、筆者はこのセレクタースルーの入力端子にDAC(Mytek Digital Brooklyn)をつなぎ、プレーヤーやチューナーの切替はDACでおこなう気でいる。

 ALLION A10よい音の秘密その4。左右独立アンプ回路。1筐体ではあるが、モノラルパワーアンプが2台内蔵されているとお考えいただきたい。いわゆるモノラルコンストラクションだ。

 ALLION A10よい音の秘密その5。強固な筐体。フロントパネル15ミリ厚のアルミ。天板・底板・側板などは4ミリ厚のアルミ。「まさか僕が設計した通りの形に加工できるとは思わなかった」とデザイナー本人が驚くほど厄介な加工を実現(特に天板に設けた放熱口のレーザー加工がむずかしいのだという)。
 しかし肝心なのは、それらがもたらす音質的メリットだ。筆者はA10の最終試作機(2ミリ厚のアルミ)も聴いているが、中のパーツや回路は同じなのに、音は明らかに量産型が優る。4ミリ厚の筐体は、確実に効いているのだ!

 ここまでお読みいただいたあなたは「よい音だっていうのは何となくわかったけど、いったいどんな音なの」と首をかしげていらっしゃるかもしれない。ざっくり言うと、プリ・メインアンプの常識を超えた駆動力と高品位、細やかな表現力を併せ持つ音。ノイズフロアが低いから、情報量が豊かで、余韻も長い。録音現場に居合わせたCDをかけると、それまで「CDフォーマットでは収録できなかったんだ」とあきらめていたニュアンスがよみがえってくる!「何となくガヤガヤしているな」と感じていた実況録音盤をA10で再生すると、聴衆が何を言っているかハッキリ聞き取れることさえある。音調は、筆者が知る限り最もニュートラル。だから音源やスピーカーとの相性に振り回されることもない。

 このALLION A10お披露目試聴会は、11月26日(土)AVAC秋葉原本店で開催された。電話予約が殺到し、すぐ満席になったので、会は2度おこなわれた。
 ほかの誰よりも先に1号機の予約を入れた男だから? 筆者が講師をつとめたが、会は予想を超えて盛り上がった。
 そのときかけた音源は、





○ はせみきた『オトダマ』
○ タンブッコ『カフェ・ジェゴック』
○ 荒谷みつる『ナチュラリズム』
○ 塚谷水無子『バッハ オルガン作品集』
○ グレン・グールド『ゴルトベルク変奏曲』
○ 小森谷巧『弦の巧II』
○ ジャクリーヌ・デュ・プレ ベートーヴェン:チェロ・ソナタ第3番
○ ボスコフスキー指揮ウィーン・フィル『シュトラウス・コンサート』
○ キャノンボール・アダレイ『サムシン・エルス』
○ ソニー・クラーク『クール・ストラッティン』
○ 井上博義・藤井政美『土と水』
○ ウィリアムス浩子『MY ROOM for Christmas』
○ 井筒香奈江『リンデンバウムより』

 音楽ジャンル、録音年代、録音手法など様々であるが、マランツSA-10+ALLION A10+B&W804D3はどの音源も十全に鳴らし切った。




  この日、島元社長がくり返し語った言葉を引用して、文章を締めくくることにしよう。
「A10は小規模メーカーでなくては作り得ない、こだわりに満ちたアンプです。こんなアンプを作ろうと思っても、大メーカーではまず企画書にOKが出ない。コストも手間もかかりすぎるからです。120万円は一般の方から見れば高価でしょうが、ほとんど儲けのない値付け。『60万円のプリと60万円のパワーアンプを作ったほうがいいんじゃないの』とアドバイスしてください方もいらっしゃいますが、マルチアンプをやらないのなら、プリ・メインのほうが音質的には圧倒的に有利というのがALLIONの考え方。これからこのアンプを持って、全国を回りたいと思っているので、ぜひ音を聴いていただきたい。そうすれば、このアンプのよさに気付いていただけるものと思います」
 「ウチの近所に来るのはいつだ!?」といったお問合せは、直接出水電器まで。

(2016年12月20日更新) 第138回に戻る 第140回に進む

村井裕弥

村井裕弥(むらいひろや)

音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。

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