コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第14回/比較する大事さとうつろい。





 最近、オーディオ雑誌の仕事でやったもので印象的だったのは、「ヘッドフォン/イヤフォン65機種」とか「電源ケーブル28本」とか「液体を塗るオーディオアクセサリー13種類」とか「電源プラグ/コネクター、20セットを使った自作電源ケーブル」といった少なくない製品を聴いて、その音をリポートする仕事だった。もちろんひとつずつ聴いていって、音の印象とか音楽的表現力をチェック。あるいは素材とか構造を調べて原稿を書いていくわけだ。
 けっこう大変だ。体力も時間もいる。

 感じたことをふたつ記しておくと、そんな大変なことをやっているのにやっぱり音のいいものと言うか、自分の好きな方向性で音楽を鳴らしてくれる製品と出会えるとうれしい、ということがまず一点。正直なところけっこうな重労働だなと思いつつ、これまた嘘いつわりなく言って気分的に盛り上がっている自分がいるのだ。



 数あるケーブル、
 どれが「いっちゃん、ええやつ」なのか?

 そしてもうひとつ感じるのは、やっぱり比較するのは大事だということ。オーディオに限らずいろいろな趣味において、比較は大事だ。趣味の本質のひとつじゃないかとさえ思う。大きく方向性が違うものもあるし、ほんとうに微妙なところ、いわゆる神も悪魔も宿ってしまいそうなディテイルにこそ、マニアックな愉悦が潜んでいるような気もする。

 編集者によると、編集部に電話してきて「雑誌に出ていた28本の電源ケーブルの中でどれが一番いいか」と訊いてくる人がいるそうだ。いわゆる「いっちゃん、ええやつ」信仰である。これ、率直に言わせてもらって間違った質問だ。まちがった質問からは正しい答えは得られない。と言うと、それはメーカーに遠慮しているのではないかとか、またまた優等生ぶっちゃって、と言われそうだが、実際に聴いてみると真実まことに、いっちゃんええやつはないと思うのだ。と言うか、ある部屋で、ある人の音の好みがあり、揃えてきたアンプとかプレーヤーがあり、いろいろな音楽があり、そういった条件の中でどの電源ケーブルがいいかなんて答えようもない。
ある意味、世の中すべては相対的である。うつろっている。

 じゃあ、どの製品を選べばいいのか。
 最終的にはうつろいにゆだねればいいんじゃないかと思う。
 無理やり選ぼうとしないのが大事だ。
 雑誌の記事を読むのもいい。実際に店頭に展示してある製品を見るのもいい。あるいは試聴できる場合もあるし、イベントで比較できる機会もあるだろう。その流れの中でふっと魔が差したかのようにその製品が必要なものに思えてくる。その「魔」の瞬間、いやオーディオの神さんが微笑んだ瞬間を素直に受け入れてはどうだろう。
 もっと言えば、こちらが選んだというより、あちらが選んでいるのかもしれないと思う時もある。世の中、何千というヘッドフォンとか電源ケーブルとかあるのだ。すべての音を把握して、狙いすまして選ぼうというのがそもそも無理なのだから。
 そしてまたそこから次の一手を考えるのが楽しい。

 オーディオ以外でもそう思って生きていけたらいいのに、というのは言い過ぎだろうか。

(2013年6月30日更新) 第13回に戻る 第15回に進む 

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。ライターの仕事としては、オーディオ、カーオーディオ、クルマ、オートバイ、自転車等について執筆。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)季刊『オートサウンド』ステレオ・サウンド社、月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。オートサウンドグランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員(2012年4月現在)。

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