コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

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第152回/2台のパラメトリック・イコライザーのこと [鈴木裕]

 うちのオーディオシステムでは2台のパラメトリック・イコライザーを使っている。機種自慢になってはつまらないが、どういう役割を果たしているかお伝えするとその考え方自体は参考になるかもしれない。

 まずパラメトリック・イコライザーについての基本的なことを。
 ごくごく簡単に言うと、わがままの利くトーンコントロールというとわかりやすいかもしれない。一般の方だと、グラフィック・イコライザーの方が馴染みがあるだろう。カーオーディオのヘッドユニットにもデジタル領域でコントロールする7バンドくらいのグラフィック・イコライザー機能が入っている場合も多い。あらかじめ周波数がセットされていて、それを上下させるものだ。


2台のパラメ


 パラメトリック・イコライザーではいじれる周波数帯自体の数(バンド)はそれほど多くない。3バンドとか4バンドのものが主流。もちろん中心となる周波数を上下させられる。さらに調整する帯域の幅をコントロールすることが出来るのが特徴だ。というと何やらわかりにくいが、二等辺三角形にたとえてみよう。
 まず、中心となる周波数を決める。50Hzとか8kHzとか。そこが三角形の底辺の中心になる。続いて三角形の高さ、つまりその周波数の帯域をどれくらいブーストするか凹ませるかを調整。さいごは三角形の幅、言ってみれば底辺の長さだ。尖った三角形になるか、なだらかな三角形になるかをコントロールできる。これはあくまでイメージなので、実際はもっと曲線的で、アナログ的なプログレッシブな変化。

 ちなみに実際に調整する最初の段階としては、音量を多めに上げたり、下げたりしておき、幅(ワイズ。Qと呼ぶ)を狭くして、音楽を聴きながら周波数を探るところから始める、というのが自分のやり方。つまり、必要なポイントを探り、次にある程度の音量を決め、そしてさいごにQの範囲をいじっていくことになる。もちろん3つの要素ともに音楽を聴きながらやる。チェックCDのスウィープ音や正弦波のスポット信号も聴いたりもするがそれはあくまで確認として。その後はなにしろ微調整。さまざまな音楽を聴いて、気になるところがあったら、細かく三っつのパラメーターを上げたり下げたりして、気にならない音にしていく。


プリと2台のパラメ

 そういうパラメトリック・イコライザーをうちでは2機種使用している。ふたつは役割が違う。リファレンスシステムの一部になっているのがAVALON DESIGNのAD2055。これはプリアンプとパワーアンプの間に入っていて、部屋とスピーカーのクセを補正するために使っている。基本的に再生音のf特をフラットな傾向にする傾向の役割だ。ただし、自分の感覚にとってフラット、違和感がないのを優先している。機材やケーブルを入れ換えたり、季節によっていじったりするが、いじる時はけっこうシビアに調整している。なにしろリファレンスだ。このソフトは低音が少なめとか、このオーディオは高域が明るい、といった判断が出来ないといけない。

 さて、問題はもうひとつのパラメトリック・イコライザーだ。今回、この役割を紹介したかった。モノ自体はフォーカスライトのRED2。もともとスチューダーというプロ用機器のメーカーの創始者であるウィリ・スチューダーが、ミキサー卓のボード(上下にスライドさせるフェーダーの上の方に収まっているイコライザーやエフェクター類をモジュール化したもの)用として設計したのがベースで、それを取り出して、スタジオ用のラックに入る形にまとめている。

 音に特徴がある。AD2055が基本的にはアキュレートな音調であるのに対して、RED2は個性派の音だ。入力側と出力側にトランスが入っていて、それが特有の音色感をもたらしている。わかりやすいのは音に艶を感じるところ。これはイコライジング機能を使わずに、つまり周波数帯域をこの機械としてはフラットにしたままでも持っている特有の性質だ。また、鮮度感自体は落ちるがなめらかで濃密な感じも出てくるのも固有のキャラクターと言っていい。

 うちではデジタルプレーヤーやフォノイコライザーと、プリアンプの間に繋ぎ変える形で挿入している。基本的には1950年代あたりから70年代の、クラシック以外の音源を個人的に聴く時に登場させることが多い。f特としては基本的に低音を持ち上げている。これは50~70年代のスピーカーは200Hz以下がかなり多めに出ているものが多くて、それは音楽を制作するスタジオも同様だったはず。そうした環境で作られた音源をいまのフラットな周波数特性のオーディオで聴くと低音が足りなくなることに対応している。

 再生音としては、実際にはメインのティールCS-7を変えていないわけだが、別のヴィンテージのスピーカーを鳴らしているくらい音は変わる。ふっくらとした聴き心地のいい音で、ヴォーカルの肉質感やシンバルの真鍮の感じがいい。情報量自体は落ちるが雰囲気がとても良くなる。特に古めのジャズやソウルでは相性が良くて、うちに来た人に聴かせてみると、今のところ全員RED2を通した音のがいいという結果になっている。合う音源を聴かせているのだから当たり前かもしれないが。

 念のためにRED2を使う時は、CDプレーヤー(フォノイコライザー)→RED2→プリアンプ→AD2055→パワーアンプ→スピーカー、という流れになる。接点が増えるし、信号経路が長くなって失うものがあるが、それよりも気持ちよさのが勝る。いい意味で味付けしている。

 音も魅力的だが、もうひとつ感じている良さというか、楽しさはツマミをいじれる点だ。慣れてくると、1バンドにつき三っつあるノブを操作するのが楽しくなってくる。これはまったく個人的な趣味だが、メーターとかスイッチとかノブがあるのが好きなのだ。デザインというかモノとして好きだし、操作するのが好きだ。マットブラック好きの上に、メーター、スイッチ、ノブ、である。ソニーのスカイセンサー5500(1972年発売のラジオ)も当時買ってもらって今でも持っているが、あれもまさにそのど真ん中のデザイン。

 子供の頃、太平洋戦争で活躍した飛行機のブラモデルをいろいろ作ったものだが、その外観とともにコクピットにも憧れた。その延長かもしれない。そう思うと、サンバレーのプリアンプといい、ふたつのパラメトリック・イコライザーといい、まさに「三つ子の魂百までも」状態。


RED2のノブ


ソニー・スカイセンサー5500

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鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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