コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第163回/これが本当に小口径フルレンジの音なのか[村井裕弥]


 Nature Collectionsシリーズ
 先月、当連載でマークオーディオのフルレンジ・スピーカーシステムNature Collectionsを取り上げた。

○ 位相ずれなし
○ ネットワークによる損失なし
○ 点音源ならではの明確な定位

 こういった小口径フルレンジ特有の魅力は保ちつつ、ベースの最も低い基音を余裕で再生。フルオケに大合唱が加わった曲のffもどんと来い!(目隠しして聴かされたら、誰もユニットサイズを当てられないのではないか!?)
 くわしい記事は、『レコード芸術』9月号217ページに書いたが、一部書き切れなかったので、こちらで補足させていただく。

 お話を聞かせてくれたのは、輸入代理店フィデリティムサウンドの社長、中島紀夫氏だ。
「9年ほど前、Alpair5というユニットを創業者マーク・フェンロンから渡されましてね。『まあ聴いてくれ』というんです。わたくしはその頃、サンスイAU-D907というプリ・メインアンプを使っていたのですが、『こんなすごいアンプで、5センチを鳴らす人いないよな』なんて思いながら聴き始めたんです。しかし、そのAlpair5が5センチとは思えない音で鳴ったのですよ。そこで『どうしてこんな音が出るのか』を仲間と分析しまして、出てきた結論は『メカニカルに正確に動くこと』と『ストロークの長さ、柔らかさ』」

 他社製ユニットとストロークが違う? 要するに他社製ユニットの多くは、音楽信号が要求する分だけ動いてくれてないということですか?


フィデリティム・サウンド試聴室(上段左から3つ目がNC7 Walnut)
「そうです。こちらに、他社製有名ユニットの測定値がありますが、マークオーディオに比べると格段にストロークが短い。そのため、強烈な立ち上がりの再生がいい加減なものになってしまうのです。しかし、本当の問題はその先にあります。基音をきちんと再生できないユニットも、倍音なら再生できる。わたくしたち人間はその倍音だけを聴いて、あたかも基音を聴いているかのように錯覚するわけですが、それは本当には基音でないから、ボワーンとした、ゆるくて質の低い低音だけを聴くことになる。量感だけは出るから、『このスピーカーは低音が出る』と誤解する人も出てくる」

 クォリティの高い、本当の基音を聴いたことがないからでしょうね。

「しかし、問題はクォリティにとどまりません。基音が聞こえない低音再生は、音階がわからなくなってしまうのです。ひどい場合には、ピアノトリオのベースがピアノと合わなくなってしまうことさえあります。奏者が弾いた音と、スピーカーから出てくる音がそれくらい違ってくるのです」

 中島氏のお話はまだまだ続くが、本日はここまでとさせていただく。最後にしっかり強調しておきたいことがあるからだ。

 それは、木の話。Nature Collectionsのエンクロージュアは、無垢の板で作られている。「ここがまた重要だ」と中島氏は力説するのだ。

「わたくしもそうですが、マークオーディオのスタッフは皆、接着剤の音が大嫌い。『音を悪くするのは、なんといっても接着剤だ』というのです」

 その無垢材も、Hard mapleとWalnutが用意されている。もちろん聴き比べたが、この2種、驚くほど音が違う! Hard mapleはやや硬質な高忠実度再生。Walnutはそれよりいくらか音楽寄りで、ウッディな響きが心地よい。スピーケーブルなどの比較試聴に向きそうなのが前者、大好きな音楽にどっぷり浸りたいなら後者か。

 筆者は、フィデリティムサウンドに置いてあるスピーカーすべてを聴かせてもらったが、個人的なベストワンはNC7 Walnut(ペア152,000円)だ!!

 信じてもらえないかもしれないが、「このスピーカーだけで生きていけるんじゃないか」そんな気がする。

 試聴可能なショップ一覧は、マークオーディオのサイトに載っているが、できることならフィデリティウムサウンドでの試聴をお薦めしたい(要予約)。新幹線代・飛行機代を払ってでも行く値打ち有り! 仕事柄様々なところで音をチェックしているが、あれほどの衝撃は滅多にないからだ。

(2017年8月21日更新) 

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村井裕弥

村井裕弥(むらいひろや)

音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。

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