コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第165回/ニュージーランドでレコード店を回った8月 [田中伊佐資]
●8月×日/引きこもりにもいろいろ種類あるらしい。オーディオばかりをいじっている人を特に「機器ごもり」、音楽に没入している人を「聴きごもり」と言うらしいが(そんなの言うわけないか)、僕はその両方の傾向が濃厚なので、海外なんぞには滅多に行かない。 ところが先月はステレオ誌最新号の「ヴィニジャン」に顛末を書いたが、ニューヨークとボストンで野球観戦の巡り合わせがあった。 そして今月8月の末からニュージーランドのオークランドに行くことになった。向こうに住んでいる肉親が11月に帰国するので、それまでに一度は遊びに行っておこうという思いが契機になっている。「機器聴きごもり」派としてはこれほど続けて飛行機に乗ることはもう当分ないだろう。 アメリカでは、二度と訪れることはないかもしれない観光の名所を差し置いて、レコード店でパタパタ物色することに、いささかの後ろめたさがあった。 |
「Southbound Records」 132 Symonds Street, Eden Terrace, Auckland |
しかし実際にはまったくそんなことはなく、ここで観光メッカの詳細は省くけど、またしても微妙にやましい気持ちを抱きつつ店を巡ることになった。
「Southbound Records」の店内 |
最初の店が、オークランドの目抜き通りクイーンズ・ストリートをずんずん南下して、幹線道路を越えて左折してところにある「Southbound Records」。建物がザ・バンドの「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」といった感じでかなり大きく(こちらはグリーンですが)、大きな期待を抱かせた。しかし店舗スペースは正面から見て左下の一角のみだった。 ここのストックはほんどがアメリカ盤、EU盤中心としたポップス、ロックの新録・復刻の新譜だ。日本の店には置いていないような、見たこともないタイトルが山ほどある。世界的なレコードの活況をここでも感じる。 「中古日本盤」コーナーもあった。日本人として誇らしいが、なにか買って帰ろうとはさすがに思わない。僕の目当ては、中古ニュージーランド盤だが、これは少なかった。 |
まったく関係ないがRecommend=推薦する、Pick=選ぶ。そのニュアンスの違いって大事なんだろうか。普通ならどっちかに統一すると思うが。
そこからオークランドの中心に引き返す感じで歩き、古着屋やエスニック料理店など面白い店で賑わうカランガハペ・ロード(通称ケー・ロード)からちょっと脇に入ったところに「Flying Out」がある。 こちらの在庫数はそれほどではないが、新譜は店主独特のチョイスが反映しているようだ。 僕が好きな日本人のインストゥルメンタル・ロック・バンドMONOのコーナーがあって、思わず「うっ」と小さく叫んでしまった。日本でこのバンドのコーナーを見るのは稀有だ。しかも過去の作品までちゃんとカバーしている。 入店してすぐ右の中古盤コーナーは、デューク・エリントンの次にビリー・ジョエルが出てくるような感じで、ジャンルごとに整理されていなかった。こういう店ほど掘り出し物があるかまったくないかのどちらかである。 |
「Flying Out」 80 Pitt Street, Newton, Auckland |
中古盤に関し、ニュージーランドではオリジナル盤にプレミアムを付ける概念があまりない。そもそもマトリクスのナンバーを吟味していない。いつどこでプレスされようとも傷んでいれば安く、きれいなら高めになる。
3つ目に入ったマンモスな店も同じで、ここはすごかった。ふつうの中古盤価格で、数は少ないがオリジナル盤を売っている。そうすると隅から隅まで見なければ気が済まない。
結局ところ、その店に3日間通い、僕はやたら検盤ばかりを繰り返すナゾの東洋人と化した。それは月が明けた9月に入ってからのことだ。
(2017年9月11日更新) 第164回に戻る 第166回に進む
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