コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第166回/逆起電力対策さえすれば、墓石みたいなパワーアンプはもう要らない?[村井裕弥]


 相島技研のパワーエクストラ
 相島技研は「オーディオのお医者さん」だ。10年以上使った愛機の修理をお願いしても、多くのメーカーは「製造終了後8年を超えていますので、修理できません」とけんもほろろ。そのため、多くの音楽ファンは「まだまだ使い続けたい愛機」を泣く泣く棄てることになる。
 そういうとき頼りになるのが相島技研なのだ。相島彰徳氏が大手オーディオメーカーを定年退職したのち起業。もちろんどこのどんな製品でも元通り直せるわけではないが、とことん誠実に面倒をみてくれる(様々なマル秘テクニックを駆使して、故障前よりよい音にしてくれることさえある)。
 正直なところ、筆者は「こんなにも細かくて地味で儲からない仕事をして、喰っていけるのだろうか」と心配していたのだが、いつの間にか10数年が経過。しかも「毎日忙しいんだよ。なかなか暇にならない」とボヤいておられる。やはり「長年使ってきた愛機を、大切に使い続けたい」という人がたくさんいらっしゃるということなのだろう。

 そんな相島技研は、修理だけでなく、オーディオに関する様々な提言もおこなっている。

○ シリコントランジスタより、ゲルマニウムトランジスタ!(シリコントランジスタが多数派になったのは、あくまで作る側の都合)
制振合金M2052を使って、「ここぞ」というツボの有害振動を押さえ込もう。
○ マスタークロック交換で、デジタル音楽再生の精度を上げよう!
 挙げ出すとキリがないので、ほかにどんな提言をしているかは、同社のサイト内「相島技研ニュース」をご覧いただきたい。

 そんな相島技研が、近年NHラボというメーカーと関わることが多くなったのは、すでに多くのオーディオ愛好家が知るところ。NHラボのNHは、「CDの父」と呼ばれる中島平太郎氏のイニシャルで、とうに90歳を超えた中島氏がいまもご自分の理想を追求しておられる。
 相島技研は、このスピーカーの長所も十分理解していたから、「なんとか、これをより積極的に歌わせられないか」を追究。その結果、かなりの物量を投入したハイエンド管球式アンプなら、十全に鳴ることがわかった。しかし、たまごスピーカーを使う人すべての人に、そんな高価な製品を買わせるわけには行かない!
 相島技研はさらに実験を重ねた。そして、あるものを併用すると、トランジスタアンプでも積極的に鳴ることに気付いた。

 その「あるもの」とはパワーエクストラ(当連載第19回参照)。プリ・メインアンプ(パワーアンプ)とスピーカーの間に挿入する、もう1つのアンプといえばおわかりいただけるだろうか。プリ・メインアンプからの出力をまずはトランスで受け、増幅度なしのアンプ回路を経由して、スピーカーを鳴らす。「なんでそんな無駄なことを」と批判される方も、実際聴いてみると、9割くらいの方が納得してくださる。
 オリジナルのパワーエクストラはそれなりに大きいし高価であるが、たまごスピーカーを鳴らすのに、そこまで本格的なものは要らない。それと同じ考え方の回路を、小型アンプの中に入れてしまえばよいのだ。


たまごスピーカーもわが家で鳴らしてみた

パワーエクストラの回路を内蔵した小型アンプ


小型アンプのふたをあけてみると


手前がステレオICアンプ、その奥に見える2枚がパワーエクストラの基板(左右独立)
 筆者は先日、相島技研を訪ね、「小型アンプだけの音」と「パワーエクストラの回路を内蔵した小型アンプの音」を聴き比べたが、この違いは、予想以上に大きい。それまで周囲を気にして上品にふるまっていた内気な人が突如覚醒し、躍動感あふれるダンスを披露して、周囲も熱狂。そんな情景が想起されるほどの変化!
 小型フルレンジにありがちな低域不足も感じられなくなるのだ。
 試しに数日間借用し、わが家にある小型フルレンジ、平面振動板を使ったフロア型、ペア600万円クラスの3ウェイも鳴らしてみたが、いずれも十分すぎるほどよく鳴る!

 即相島技研に電話し、「これはパワーエクストラの回路が、加圧ポンプみたいな役割をしているってことなんですか?」と尋ねたら、「いや、僕も以前はそう感じていたのだけれど、実はそうじゃないんじゃないか。スピーカーユニットはアンプからの出力を受けて振動するわけだけれど、そうやって動くとき、発電機のような余計な働きもする。アンプはスピーカーに電流を送り、その直後にスピーカーからの返信(逆起電力)を受け取るんだ。その逆起電力はもちろん、ハイファイ再生の邪魔にしかならない。それを受けると、多くのアンプは正常動作できなくなってしまう」
「わかります。だから何十年も前から、『ハイエンド・スピーカーには、逆起電力を跳ね返せるくらいタフなパワーアンプが必要だ』と言われてきた」
「その『常識』は覆せるんじゃないかな。パワーエクストラは、逆流防止の堤防なんだよ。特にNFBをかけたアンプにとっては大迷惑な逆起電力の害を、たったこれだけの回路でせきとめられる。だから、こんな小さなてのひらサイズのアンプで、ハイエンド・スピーカーも鳴らせる!」

 ここまでお読みになって、「そんなバカな」と感じられた方もいらっしゃるであろう。しかし、そんな方もご自宅のハイエンド・スピーカーをパワーエクストラ内蔵アンプで鳴らすと、それまでの「常識」が瓦解するはずだ。何より筆者がそうだったのだから。

 相島技研は、自社試聴室の訪問も、機器の貸し出し試聴も歓迎している(いずれ要予約)。「そんなバカなことが」と黙殺するより、ご自身の「常識」から卒業したほうが余程しあわせだと思うのだが、いかがなものか。

(2017年9月20日更新) 

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村井裕弥

村井裕弥(むらいひろや)

音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。

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