コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第174回/後藤雅洋さんが語る「いーぐる」のオーディオ遍歴が小冊子になった11月 [田中伊佐資]





●11月×日/ミュージックバードがあるTOKYO FMビル11階で催された「いーぐる50周年記念パーティ」に出席。出席者全員に店主後藤雅洋さんの手記やお祝いの言葉などを掲載した小冊子「いーぐるに花束を」が配られる。
 この本には後藤さんが語る「いーぐる」のオーディオ遍歴も載っている。僕が話の相手をさせてもらったいきさつで、その話を知人にすると「ぜひ読みたい」という反応があり、このコラムに転載する許可を後藤さんからもらった。

「後藤、興奮! 今明かされる「いーぐる」オーディオ秘話」
(構成:村井康司・田中ますみ)

■後藤雅洋、オーディオの目覚め
田中:後藤さんは元々、学生時代にオーディオは好きだったんですか?
後藤:僕、団塊の世代なんですけど、団塊の世代の人間が高校生ぐらいでしょうかね、1960年代あたりが日本のオーディオの黎明期じゃないかと思うんです。それ以前は、本当にマニアックな人は自分でアンプを組み立てたりしてやっていたと思うんですけど、60年代半ば、秋葉原で一体型の家具調の2つのスピーカーがあって、真ん中に…
田中:プレーヤーとアンプが全部こみこみになっている。


「いーぐる50周年記念パーティ」で配られた
「いーぐるに花束を」


後藤:それがいろんなオーディオメーカーから出てきた頃で、ちょうどその時代に自作派じゃなくても、オーディオに関心をもつことができる。ちょっとマニアックな人は東芝とかメジャーな会社がシリーズ名をつけてるのじゃなくて、各々アンプなど機械を買う。そういう時代に僕、高校生ぐらいだったので、かなり関心があって買った記憶がありますよね。
田中:そうですか。後にジャズ喫茶の店主になるって意識は全く無い状態で、オーディオに興味を持ったんですね。
後藤:そんなにマニアックな人でなくても、オーディオってものに意識がいった最初の世代じゃないかな。実際僕も、秋葉原に行って買いましたよ。もちろん、大して高いものじゃないですけどね。当時、藤沢に住んでいたのですが、8畳ぐらいの応接間にスピーカーを左右分けて置いてプレーヤーとアンプから線を這わせた記憶があるから、離れているんですよね。
田中:それはかなり進んでいますよ。当時オーディオって一かたまりで置いてある、鎮座するって感じでしたから。ケーブル這わして離すって発想当時は無かったですよ。
後藤:誰しも関心を持った時代だったんじゃないですか。今振り返ってみても、大した音じゃなかったと思うんだけど。今の人は元々ある程度いい音聴いているから、オーディオ装置がかわっても、「それが?」って感じになっちゃうじゃないですか。だけど僕ら、団塊の世代は、最初のオーディオ体験って蓄音機なわけですよ、その次ラジオでしょ。そこからいくと圧倒的な音質の改善になるんですよ。それでオーディオに目覚めたってことありますよ。
田中:でもそれは、びっくりしちゃう。
後藤:びっくらこいたっていうか、こんなに音がいいのかって。そういう意味でいうと、僕らの世代っていうのは、いろんな意味でもともと酷かったから、幸せっていっちゃ幸せですよね。大してお金かけなくても、これは凄いと思えたから。
田中:学生時代はその衝撃をずっと引きずりながら、ちょっとずつ買い変えてみようとしたんですか?
後藤:今、思い返してみると、ジャズ喫茶をやるっていうので、商売なんだから、ある程度金かけれるじゃないですか。それでやるぞ、っていうのがありましたよ。
田中:ちょっと「シメタ!」と思いましたか? 
後藤:「シメタ」っていうかね、そもそも私がジャズ喫茶始めたのって、父親がやっていたバーが営業不振で閉めていたので、僕らパーティーとかやって遊んでいたんですよ。そんな遊んでいるんだったら、やれ、みたいな感じで始めて。それでジャズ喫茶やろうと思った気持ちの10から20%は、天下御免で、オーディオ装置に金かけられるっていう気持ちはあったと思う。





ジャズ喫茶「いーぐる」
東京都新宿四谷1-8
TEL 03-3357-9857


■JBLにしびれた!
後藤:でもね、知識は全然ないわけですよ。僕はジャズそのものについても、ほとんど知識がなかったんです。で、ジャズ喫茶開くにあたって、つい最近亡くなっちゃった人なんですけど、茂木信三郎さんっていう中学の時の隣のクラスの人にレコードのセレクションとかしてもらったんです。それと同時に、オーディオの指南もその人にしてもらった。というのは、茂木さんは、当時キッコーマンの社長の甥っ子だったんです。それで彼の野田にある実家に遊びにいったら、JBLのオリンパスの375が入っているタイプかな、それを彼のお父さんが持っていたんです。
田中:当時の感覚でいえば、車買えちゃうぐらいですよね。
後藤:茂木さんちのオリンパス、不思議なことに畳の上に置いてあるんですよ。畳の部屋にこんなもの置いてあっていいのかなって気がしたけど、意外にいい音するんですよ、音の抜けがいいのかな。
田中:オーディオ衝撃体験第一弾が、藤沢にいた頃のセパレートなら、これが第二弾になるわけですね。
後藤:JBLって幾らするの?って言ったら、2本で130万ぐらいだったかな?当時の金額でいったら大変じゃない。でも、JBLのユニットでサンスイが作ったLE8Tが当時1本5万ぐらいだったんです。もちろん、オリンパスとは比べようがないんですけど、それでも一応JBLの音がするっていうんですよ。聴いてみたら、確かにスケールは違うんだけど、JBLらしさがあるんです。

田中:フルレンジ、20センチ1発ですね、それは。
後藤:だからそんなにふくよかな音がするわけじゃないんだけど、中域がガツンときてすごくいいんですよ。
田中:舶来の音がするんですよね。
後藤:舶来っていうか、脂っこい肉を食ってる音がするんですよ。日本のはお茶漬けっぽい音、サラサラ。で、JBL買おうってことにしたの。
田中:それはサンスイがエンクロージュアを作ったのですか?
後藤:そう。もちろん、オリンパスほどちゃんとしてないけど、一応組格子になってて、それを木の棚つくって横向きにして店で使っていたんです。
田中:今でも愛好している人いますしね。赤坂の「ボロンテール」とかそうですよね。中域が濃いんですよ。
後藤:そう、だからジャズ喫茶っぽい音しましたよ。もちろん当時の「ファンキー」のパラゴンとかに及びも付かないけど、ジャズっぽい音しましたよね。

■初代いーぐるのアンプとプレーヤーは?
田中:その時のアンプとかはなんだったんですか?
後藤:たぶんね、一番最初はラックスの38FD。
田中:プリメインアンプ。
後藤:管球じゃないほう。プレーヤーがね、オルトフォン・プレーヤーっていうのがあったんですよ。
田中:オルトフォンがプレーヤーを出していたんですね。
後藤:それが微妙なんだけど、「オルトフォン・プレーヤー」って名前がついているんだけど、ヤマハがアッセンブルしたんだと思う。
田中:なるほど
後藤: アームとカートリッジがオルトフォンなんですよ。プレーヤーそのものはよその会社じゃないかな。ベルト・ドライヴ。当時16万ぐらいで結構高かった。
田中:それを買う決め手はなんだったんですか。
後藤:ヤマハの人が「これがいいよ」っていうから「はあ、そうですか」って。全然わからないから。ただね、オルトフォンのカートリッジってすごい高いんですよ。針交換が。カートリッジがSPU-GTだったんだから。
田中:すごい贅沢ですね。ジャズ喫茶で朝から晩までSPUでかけるなんて、商売あがったりですよね(笑)。
後藤:だからすぐ変えたけどね。
田中:GTだと、カートリッジの中にトランスが入っているんですよ。
後藤:そう。だから特に昇圧トランスなんか使わなくても、それをラックスの38FDにいれたらそのまま音出ましたよ。そういう構造になっていました。でね、ハッキリ言ってすっげえ音良かった。
田中:僕も想像つきますけど、音いいと思います。
後藤:濃い音がするの。だけど暫くして気が付いて、針すり減って代えたら3万っていわれて「とんでもないや、できねーよ」って言ってね。
田中:それでプレーヤーごと変えたんですか?
後藤:それでどうしたか忘れたけど、プレーヤーはそのまんまだと思うんですよ。そこにシュアの一番安いやつを付けたの。
田中:M44ですかね?
後藤:そうそう。5000円ぐらいだったかな
田中:M44はジャズ喫茶の定番だと思いますよ。
後藤:ガッツのある音がするんですけど、でもやっぱりオルフォンに比べるとかなり落ちるんだけど、しょうがないから、シュアのM44を買って、やったのを覚えていますよ。
田中:でもそれ、すごいいい話っていうか、わかる人はこれ聞いていいセレクトだなと思いますよ。
後藤:偶然なんですけどね。でも、さすがにLE8Tだと帯域が狭いと思って、次に買ったのがJBLのL88 ノヴァ(Nova)っていう。箱も同じ大きさなんだけど、それは2ウェイで、すごくいい音していました。





■ケーブルで音が激変した!
後藤:その当時は、電気的な技術とか、オーディオ的な知識なんか殆どないわけですよ。今でも覚えてるんだけど、長岡(鉄男)さんの記事を読んで、電線太くすると音が良くなる、って書いてあったんですよ。ほんとかよ、って思ったんですけど、当時スピーカーケーブルって、赤と黒の2色だったんだよね。それを黄色と白のやつにすると断面積が倍ぐらいになるのかな?
田中:そういう黄色と白のやつが当時、売っていたんですか?
後藤:うん。なんの細工もないんですけど。
田中:要するに、工業用の何かでしょうね。
後藤:断面積が倍で、メーター何百円とかで安いわけ。古いほうの店だったから、這わしても、全部で20メーターぐらい買えばいいから大した額じゃないわけ。試しに代えてみたの。そしたらすごく音が良くなったの。圧倒的に音にガッツが出た。
田中:それはノヴァ時代ですか?
後藤:たぶんそうです。それでね、こんなに音が違うんだ、と思ったの。だから電線で音が変わるっていうことの一番最初の体験ですよね。それで、だったらそれをダブルで組めばさらに太くなるわけでしょ。そんなの簡単じゃないですか。それでやってみたの。そしたらやっぱりすごくいいわけ、凄いんだよ。(興奮気味な後藤さん)
田中:そうですか、やり過ぎはダメだったっていうオチかと思ったんですけど(笑)。
後藤:要するにパンチがでて、音圧もあがる感じなの。
田中:すごいですね。それって、何年ぐらいの話ですか?


放送中「いーぐる後藤の”ザ”ジャズセミナー・アーカイブ」
後藤店主が様々な角度から”ジャズの楽しみ方”をアドバイス。
THE JAZZ(ch)
(月~金)9:00~10:00
再放送=(月~金)20:00~21:00
詳しくはこちら  

後藤:1967年に店開いたので、古い方の店でやっていますから、70年頃じゃないかな。
田中:いーぐる50年の中でもアクセサリー衝撃でいうとそれは結構すごい。
後藤:最初の衝撃ですよ。だからよく、アクセサリーなんてインチキだ、っていう人もいるけど、そんなことない。安い値段で思いっきりリアルに体験してるんだから。こんな簡単なことで音変わっちゃうのって。こんなことで変わるんだったら、アンプなんかにお金かけるのバカバカしいやって。(笑)
田中:アンプを買い変えたぐらい、良くなったってことですよね。
後藤:明らかにアンプを1ランク上にしたぐらいの効果があるんですよ。でさ、アンプを変えるといい面もあるけど、悪い面もあるっていうか、好みの面も出てくるじゃないですか。でもケーブルは好みのレベルじゃないんだよね、
田中:そうですね。
後藤:あの体験は強烈でしたよ。白と黄色の線にして、それを2倍にして、もっとやろうかと思ったけど(笑)、その後しばらくして店が向かい側に移転したんです。

■禁断の出力倍増作戦
田中:お店がかわった時に、オーディオも一新したんですか?
後藤:そうです。店が広くなったので、いくらなんでもノヴァじゃ無理なんで、フレアー(Flair)にしたんです。
田中:まだJBL体験は生きてるんですね。
後藤:そう。これもよく覚えているんですけど、フレアーっていいスピーカーだと思った。
田中:フレアーっていうのはどういう構成なんですか?
後藤:ウーハー(低域)が130A。
田中:38センチウーハーですよね。D130ではないんですね。
後藤:Dじゃなくて、A。中高域は175。
田中:1インチのドライバーが入っているやつですね。 ツイーターじゃなくて、コンプレッション・ドライバーで前に飛ばせる。
後藤:そう、このフレアーで聴いた、ハード・バップは最高でしたよ。ジャッキー・マクリーンなんて、バリンバリン。そのオーディオ体験でいうと、この時はラックスのSQ-507Xだったんだけど、その後印象的なのはさ、ハーマンカードンのサイテーションっていうあんまり高くないアンプ知ってる?65ワットぐらいしか出ないセパレートのやつ、あれが安くでたんですよ。出力は下がるんだけど、アメリカ物だからって、20万ぐらいだったと思うんで、買ってつないだらすごいいい音したの。
田中:これはオーディオ衝撃度の何番目なんですか?(笑)
後藤:このあとまだあるんですよ(笑)。オレ、何だか興奮してきちゃった(笑)。ラックスなんかに比べると、ハーマンカードンは音が荒いんですよ。
田中:ここで初めて国産から、オールアメリカンになった。ある種の大きな転換期ですよね。
後藤:安いアンプだから、雑な音なんだけど、ガッツがあるの。だからマクリーンに元気が入ったっていうか注射が入ったって言う感じ。
田中:原稿上は××を打った、みたいな(笑)。
後藤:そうなるとさ、オレってそういうとこバカなんだけど、そうなるとこっちも興奮して線を2倍にしたみたいな事考えるわけですよ。それはどういう事かっていうと、オーディオマニアにたきつけられて、ハーマンカードンのアンプってセパレートなんだけど、65ワットぐらいしか出力ないんですよ。でもね、このアンプの出力を倍にする方法があるっていうんですよ。「どうすればいい?」って聞いたら、1:2のトランスで変換すると出力が倍になるって。
田中:トランスで出力を倍にする?
後藤:ただし、そうすると設計上の倍の電流が流れるわけだから、熱くなって、絶対そういう使用をしちゃいけないんだけど。だからどうするかっていうと、ファンでもって冷やすの。秋葉原に行って、小型ファンを買って仕込んで強制空冷で。
田中:トランスも中に仕込むわけですか?
後藤:いや、外付けにして。これがすごい音するんですよ。
田中:その話、もろにジャズ喫茶ですよね。
後藤:たまんないの。
田中:昔はなんでもありの時代でした。
後藤:それはたしか電気的知識のある工学部の知り合いが教えてくれた。「でも危ないから火事になっても知らないよ」っていうから、「冷やしゃいいんだろ?」って。
田中:まあ、理屈でいえばそうですけどね……。
後藤:機械も熱くなるけど、出てくる音もホント熱い。だから歴代の音の中で、一番ガッツがあったのは、このフレアー+ハーマンカードンにトランスで無理に気合いを入れた時期だね。
田中:現実的にも熱かったし、音も熱いと。
後藤:マクリーンなんかはたまんないわけ。でも問題もあって、やっぱり1年ぐらいで壊れちゃった(爆笑)。
田中:普通そうでしょう。
後藤:アンプがおかしくなっちゃったんで、ハーマンカードンに持っていったら、「何か、ヘンな使い方していませんか?」って言われたんで、「いや、実は」っていったら、「そんなの保障できない」って言われた。
田中:そりゃ、無理ですよ。(笑)
後藤:うん、そうだよね、って思った。(笑)それで、オンキヨーにかえたんです。
田中:またアメリカ製じゃなかったんですか。





■ジャズの変化とオーディオ
後藤:金がなかったから(笑)。それで穏やかな音になりましたよね。あともっと本質的な、やれハーマンカードンだ、ハードバップだっていうのがダメになった理由があるんですよ。つまり、ウェザーリポートが出てきたわけ。
田中:71年かな、時代はそうなるわけですね。
後藤:ターボエンジン付きの強制空冷でフレアーの組み合わせでいくと、マクリーンは最高だけど、ウェザーリポートはやたらうるさくなるんです。熱いんじゃなくて、やかましい。それでまずいなと思って、JBLの4343Bに変えたんです。2ウェイだと、コントロールの幅が狭いから、簡単に言うとブルーノートのマクリーンやモブレーは良くても、ウェザーみたいなエレクトリックジャズは上手く再生できない。ましてやECMなんかはアウトなんですよ。ECMをいい音で鳴らそうとすると、マクリーンに元気がなくなっちゃう。
田中:そのジレンマはジャズファンみんな抱えていますね。
後藤:2ウェイだといじりようがないわけですよ。だから4343Bだと、4ウェイだからもう少しなんとかなるかなと思って、その当時ものすごく評判よかったから。Bっていうのはウーハーがアルニコじゃなくて、フェライトだったけどね。

田中:そうだったんですか。急激にサイズが大きくなりましたよね。
後藤:だからものすごく苦労しましたね。
田中:こんどはいじるところが多くなりますからね。
後藤:ウーハーと上の3つがバラバラに聞こえちゃって一緒になった感じがしないの。とはいっても、フレアーに比べると50年代ハードバップ、70年代エレクトロニクス系、ECM系を足して3で割るみたいに、なんとか鳴らすには明らかに4343Bの方がいいですね。
田中:お店としてはいろんな種類の音楽かけるわけですからね。細かい音の再生が、フレアーだと厳しくて、ニュアンスがでてこなくて、一本調子になっちゃうんですよね。
後藤:おっしゃる通り。ハードバップだけ聴いてる分には一本調子でもいいんだけどね。時代によってジャズが変わったってことと、スピーカーの変化って完全に関係があるなと思って変えました。
田中:それが今のスピーカーに繋がる原型で、その時には壁に埋め込まれていたんですか?
後藤:JBLの4343シリーズって、もともと埋め込み型の設計なんです、外に出して使うんじゃなくて。そのあと設計が変わったのかもしれないけど、始まりの時のJBLの説明書みたら、とんでもない測定の仕方してるのね。砂漠の地面に穴ほってスピーカーをいれて。
田中:無限大バッフルってやつですね。
後藤:JBLの4343の特性はポール2本立てて、ケーブルはって、マイクをたらして、測るんです。僕はそれ見て、壁に埋め込みした方が正規の特性なんだなと思って埋め込みにしたんです。
田中:じゃ、4343Bの時に埋め込んだんですか?
後藤:この店はその前にディスクチャート(ロック喫茶)だったんだけど、その頃に、タンノイのレクタンギュラーヨーク(Rectangular York)っていうのが入っていたんです。
田中:クラシックファンにはたまらない名機です。
後藤:それを抜いたところに4343Bがすっぽり入ったんだよね。数ミリの違いだけど、ぴったし入るからちょうどいいやって。
田中:タンノイとJBLじゃ全然違うタイプですよね。
後藤:なんでレクタンギュラーヨークにしたかっていうと、ロック喫茶やった時にね、一緒にやっていたのがイギリスロック好きで、イギリスのスタジオのモニターにタンノイが多かったんだって。イギリスもののギター音とか、すごくいいんですよ。ヴォーカルもなかなか渋くて、キンクスのレイ・デイヴィスみたいな声は紗がかかっていいんですよ。
 だけど、ディスクチャートやめて、ジャズ喫茶でタンノイでジャズ再生すると、いいのもあるんだけど、シンバルなんか、お猿が太鼓たたいているみたいにしょぼくなっちゃうんだよね。マックス・ローチですらね。ピアノトリオとかはまあまあで、ヴォーカルはすごく良かった。カーメン・マクレーや、クリス・コナーなんかはタンノイで聴くといいわけ。でも、マックス・ローチやエルヴィンがお猿の太鼓になったらイカンからね。それで変えたんです。
田中:その後4343Bから4344に変わる理由はあったんですか?
後藤:それは単にジャズ喫茶って、スピーカー長く持たないんですよ。耐用年数から言って、まずウーハーがへたるでしょ。
田中:ウレタンのエッジがぼろぼろになりますよね
後藤:4343Bと4344はサイズも同じなんです。でも明らかに、4344シリーズの方がいいですね。全然使いやすいんだもん。
田中:そこはJBL技術陣も進歩して、技術的にリファインされたんでしょうね。
後藤:4343Bの時は、ウーファー1個とそこから上の3個のユニットがバラバラになるのをなんとかごまかす為にすごい苦労したのが、4344に買い変えたら、たいしていじらず、ポンと置いたらすでに一体になってる。あと圧倒的に優れていたのが、音場感と音像感。JBLのスピーカーって定位が悪いんですよ。どこでやっているかよくわかんないんだよね。
田中:LE8Tみたいに1個だといいんだけど、4ウェイだとなおさらです。4ウェイは各々のとこから音が出てて、それをピシっとフォーカス合わせるのは、難しいんです。
後藤:所謂ガッツ感とかはいいんだけど、ヴォーカルだったらどこで歌っているか、口の位置とかはっきりしなんだよね。まぁ、ジャズ喫茶だからしなくてもいいんですけどね。
田中:ジャズ喫茶はある特定の席が良かったり悪かったりするよりも、フロア全体が均一であることが大事ですよね。
後藤:そう。だから、あんまりそれは気にしなかったんだけど、4344にしたら圧倒的に改善されましたね。楽器の定位がよくわかるようになった。
田中:ミュージシャンの位置関係がわかりますよね。
後藤:あと、聴く場所によって音が違うっていうのが改善されたみたい。どこでも平均的に聴こえる。音が店の中いっぱいに広がるみたいな。このシリーズはどんどん改善されてて、4343より4344の方が改善されてるし、Mark2にしたらもっと改善されてる。
田中:そうですか。それはどこの部分がよくなっているんですか?
後藤:一番はっきりしているのは、Mark2になったら、クラシックが良くなった。オペラなんかきいても、はっきりどこで歌ってるかわかるようになった。
田中:やっぱりその辺り、進歩は続いていますね。
後藤:今の基準からいけば、4344なんてハイエンドじゃないけど、コストパフォーマンスがすごくいいですね。

■CDが登場して一苦労
田中:80年代中頃ですか、CDが出てきたときはどう対処しましたか?
後藤:ある時期から新譜が全てCDになりましたよね。そうなると、いいも悪いもなくて、ジャズ喫茶としては代えざるを得ないわけです。それでうちもCDプレーヤーを買ったんですけど、どうしてもアナログとの音質の違いがめだっちゃうんです。CDでチューニングすると、アナログがおかしくなっちゃうし、アナログでチューニングすると、CDがおかしくなっちゃうってことがすごくありました。さっき言った、ECMは良くても、ブルーノートはダメだ、っていうのと同じことがでてきちゃうんです。それ、すごく苦労しました。そこで、ウエスタンの1:1トランスを買って入れてましたね。
田中:CDプレーヤー側に入れたんですね。
後藤:そうすると、CDとアナログの音の違いが目立たなくなりました。ただそれも、ある時期から入れなくても問題なくなりましたけどね。
田中:今、そんなにお店の音、違和感ないじゃないですか。
後藤:でしょ。CDだって、アナログだって、歴然と変わってはいないでしょ。ジャズ喫茶のオーディオの問題点って、かけるソースがいろいろあって、バランス取るって問題と、アナログとCDをかけた時の違和感をどう無くすか、っていう2つですね。でもどっちも解決しちゃったみたい。

■何もしないことが極意?
田中:後藤さんは今の音は、結構満足してますか?
後藤:してる。
田中:60周年にむけてこのままずっといくぞ、と。(笑)
後藤:ある程度経つと、音が落ち着くじゃないですか。そしたら「ま、いいか」ってなってあんまり手つけなくなっちゃったんですよ。で、オーディオ戦線からおりたんです。でも、いーぐるでやってる連続講演で、原雅明さんっていうヒップ・ホップに詳しい方がゲストでいらした時に、ヒップ・ホップをかけたんですよ。そしたら原さんが「すっげえ、いい音だ」っていって驚いたの。僕はヒップ・ホップのレコードなんて聴いたことないから、「へえ」って思ったんだけど、原さんは「クラブで聴こえない音がする」って感心してたの。で、いーぐるでヒップ・ホップのアナログ名盤を聴くイベントをやらせてくれないかって言われてやったんです。その時のお客さんからも「すげえ、いい音」って言われたの。僕らはこれが普通だと思っているけど、彼らはクラブで聴いてるから低音はものすごく出るけど、細かいところは出ないらしいんです。
田中:ソースによっては細かい音が入っていますからね。
後藤:「こんな音が入っているんだ」って言われると、うちの音も結構いいんだなって思った。それに最近クラシックの評論家の林田直樹さんとおっしゃる方とお近づきになって、うちでクラシックのイベントもやっているんですけど、クラシック関係者も「すごいいい音だ」って言ってくださるわけ。ヒップ・ホップもクラシックも、ジャズとは全然違うわけだけど、みんなが「いい音だ」って言ってくれるってことはバランスいいのかなって。
田中:後藤さんがジャズのオーディオっていうものに対して、若干ドロップ・アウトしたことで、機械がそのままエージングが進み、熟成されてったんじゃないでしょうか。「ジャズ喫茶のオヤジだから」っていってジャズに合わせると、当然ジャズは鳴るけど、他が鳴らなくなってくる。それがよかったんですよ。
後藤:それは考えたことがなかった。そうかもしれない。
田中:機械は常に鳴らしてやるっていうのが最高のチューニングです。いつもオーディオを使ってるから、いつ誰がパッと入ってきても、いい感じで鳴るんじゃないかな。オーディオチューニングの極意かもしれませんよ。
後藤:自分なりにジャズ喫茶の音ってことに対して考え方があって、それは選曲とかかわってくる事なんだけど、僕は個人的にジャズファンでもあるわけですけど、ジャズ喫茶の選曲には自分の趣味を殺すとまでもいかないけど、個人的なジャズファンの面は必ずしも出していないです。僕のジャズ喫茶観って、ジャズがあって、一方にジャズファンがあって、その間に立って、ジャズを面白くわかりやすく提供する、紹介するっていうのが、ジャズ喫茶の役割だと思うんです。人間だから多少どこかに入っているとは思うけど、そこに自分の趣味を入れるって、あんまりやっちゃいけないんじゃないかなって。これが僕のジャズ喫茶観の基本なんだけど、同じことが、オーディオについても言えると思うんです。僕の個人的な趣味で言うと、「ハードバップがガチンガチンに鳴ればいいや」っていうのもあるんですけど。(笑)
田中:JBLフレアー時代の音ですね。
後藤:でもジャズ喫茶っていう場所は、本来はハードバップも、エレクトリックジャズも、ECMの透明な音も、一応フラットに提供しなきゃいけないじゃないですか。それはかなりはっきり意識しましたね。ブルーノート、エレクトリック、ECM、その3つが、一応きちんと鳴るようにチューニングしているから、その結果としてクラシックも、クラブミュージックもそこそこにはいけるのかな。
田中:後藤さんが意識しないところで違うジャンルの音楽に繋がっていって、人から言われてびっくりした、ってことになったんでしょうね。
後藤:だから最近、気を良くして、あんまりいじらないようにしてる。
田中:いい感じで鳴ると、さらに良くしてやろうって欲が誰にもあって、それで失敗して元に戻そうとすると戻らない。腹8分目と同じように、音8分目っていうんですかね。10割求めないと、いい感じで8分目が続く。
後藤:ほったらかしで忘れるっていうのもいいかもしれないですね。昔はしつこく、接点を磨いたりしてたんだけど、最近やらないんですよ。
田中:磨くとガラっと音がかわりますけど、逆にバランスが崩れる可能性もありますよね。

■伝票でオーディオチューニング!
後藤:でもいじるのも面白いんですよ。例えばいーぐるのスピーカーと背面のビルの壁の間にスペースがあるんですけど、ある日そこに伝票の束を入れておいたんです。その伝票の束の出し入れでもって、低音が変わることを発見したの。壁全体が疑似バスレフになってるの。
田中:量で変わるんですか。
後藤:そう。伝票を積んでいくと、低音の再生限界が上にあがってしまうけど、キレがよくなる。伝票を抜くと重低音がでるんだけど、ダンピングが悪くなる。伝票を何段いれるかでチューニングしてたんです。
田中:面白いなぁ。いーぐるのオーディオは伝票で左右されていたって(笑)。じゃ、いつも後藤さんの好みの量の伝票が入っているんですね。
後藤:完全に相関関係がある。それを発見しちゃったの。面白いでしょ。
田中:儲かっているときは低音のキレがいいとかはないんですかね(笑)。
後藤:僕のオーディオ的な快感はね、1にLE8Tで線をダブルにした時、2に伝票でダンピングが変わるってこと(笑)。




■60周年に向けての抱負を!
田中:後藤さんの「オーディオの夢」ってありますか?
後藤:僕の夢ってわりとショボくて、JBLの4343も4344も、中高音と低音でアンプを分けられるんですよね。面倒だから1個にしてやってるんだけど、宝くじ当たったら、マーク・レビンソンの23・5Lをもう1つ買ってきてバイアンプでやってみたい。でもそんなの考えてみたら、宝くじ当たらなくても23・5Lって中古で30万ぐらいで売ってるか。線含めても40万ぐらいでできるか。(笑)気がちっちゃいのかな。
田中:何にせよなんかきっかけがないと出来ませんね。
後藤:アンプをもう一台置く場所が面倒だとか、ケーブルの配線が面倒とかで今やりたくないけどね。
田中:あと、今、ハイレゾのデータで音楽を聴くことが増えているじゃないですか。そこにジャズ喫茶って、うまくつながるのかなぁ、っていうのがありますよね。
後藤:この前うちの店でハイレゾを聴くっていう会をやったの。会の前日に準備でソニーの人がきて、機械を置いていってくれてテストでかけてくれたんだけど、すごくよかったですよ。古い音源は、エリック・ドルフィーの『アット・ザ・ファイブ・スポットVol.1 』を試しに聴いたんですけど、音いいですよね。ドルフィーのアルトの音色の細かいところもわかるし。ハンコックの『処女航海』はハーモニーの感じがすごくすっきりでて、一番驚いたのは、ダイアナ・クラールの『ウォールフラワー』。あれ、聴いた時はちょっと不気味だった。なんか人がそこで歌ってるみたいな感じ。だから明らかにいいと思いますよ。
田中:今後ハイレゾをいーぐるに導入って考え方はあるのでしょうか?
後藤:ちょっと考えてもいいかな、と思った。
田中:後藤さんはハイレゾに対しての抵抗感はありませんか。
後藤:最初はよくない噂も聞いていたから、ちょっとって思ったけど、実際聴いたら、問題ないし、いいよ。ものすごく生々しいし。不自然な感じはない。ドルフィーなんか古い録音だから不自然になるかなと思ったけど、そんなことなかった。
田中:データ量が違いますからね。
後藤:音が生っぽいですよね。昔、音を生っぽくするとガッツや雰囲気がなくなるっていったけど、せいぜい20~30分聴いただけだけど、全然OK。そのあとCDでも聴いてみたんだけど、うちの装置だめじゃん、って思えた。だからハイレゾはいいと思うな。
田中:60周年までの課題は、アンプ2つとハイレゾ。宝くじが当たらなくても、ロト6に3等当選くらいでぜひ実現してください。(笑)
(2017年10月 都内にて)







(2017年12月11日更新) 第173回に戻る 第175回に進む 

田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

東京都生まれ。音楽雑誌編集者を経てフリーライターに。現在「ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズ批評」などに連載を執筆中。著作に『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)、『オーディオ風土記』(同)、『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(音楽之友社)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。
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