コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

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第182回/ティールCS-7をアヴァロンのアイドロンに入れ替えた話 [鈴木裕]





 タイトルの件について、音楽之友社『ステレオ』誌3月号に書いた。
 冒頭を引用する。

アヴァロン・アコースティクスアイドロンの中古を衝動買いした。今までのメインのスピーカー、ティールCS-7は1996年から鳴らしてきて戦友のような存在だったので、突然の変更に自分自身が一番驚いている。」

 1月の終りのことだった。『ステレオ』編集部からは1100字程度の依頼で、盛り込めなかった内容も多い。

 ちなみにいったん書いたが紙数的に入らないので添削してしまった内容は、たとえば「自分自身が一番驚いている」の前には『ステレオ』誌編集者の野呂くんの話がある。アヴァロンの納品後、メールでスピーカーを交換したことを伝えたのだが、3~4日して来た返事が「ノーベル賞受賞時のディランのように言葉をなくしておりました」という反応。えっ、そんなに重大に驚かなくてもいいのにと思ったのだが。そのことを書いた後に、しかし「自分自身が一番驚いている」と来るのが本来の文脈で、「野呂くんも重大に驚いたが、実は自分自身がもっともっと驚いているのさ」という流れだったのだ。自分でも思ってもみなかったのになぜかやってしまうことが時にあるが、そういう感覚だった。なんだオレ、スピーカー替えちゃったよ、というような。魔が差したという言い方も出来るが、たぶんそれが無意識の底にあった願望なのだろう。



アヴァロンのアイドロン。ツイーターとミッドは、セラミックの振動板で白い。



 ちょっと概要的なことも書いておこう。
 ティールはアメリカのスピーカーメーカーでスタートは1977年。現代的な音場感と音像の実体感を両立すべく設計されていて、ちなみにCSはコヒレント・ソース(整合性のある音源)という意味。詳細は「第86回/うちのスピーカーについて」を参照。






スピーカー端子は底面にあり、プラスネジを締めてYラグが最適な構造。その横にバフスレフのポートがある。

 アヴァロンもアメリカのスピーカーメーカーで、スタートは1982年。現代的な音場感と音像の実体感を両立すべく設計されていて、と書くとティールと同じじゃないかと突っ込まれそうだが、ティール、アヴァロン、ウィルソン・オーディオはその分野の黎明期から同じようなことを考えていた部分もある3つのメーカーだ。
 アイドロンは1998年に生まれた3ウェイで、ウーファーの振動板はノーメックス&ケプラーの複合コーン。サイズは11インチ。ミッドとツイーターはセラミック製振動板で3.5インチと1インチのサイズ。底面にポートのあるバスレス型で、ポートのチューニングは35Hz。高さとしては1.1mくらいで68kgある。エンクロージャー本体は高密度MDF製で。板厚はかなり厚そうだ。全体を組み立て、平行面に6トンのプレスをかけつつ接着。その後にツキ板を貼ってからまた6トンのプレスをかけて製造。造りの良さが音にも出ている。

 ちなみに発売当時の日本での値段は300万円台の後半。2001年にはツイーターの素材をダイヤモンドにしたアイドロン・ダイヤモンドが登場(現行機種)。また、その後にアイドロン・ヴィジョンというのも出ている。断捨離中のため『ステレオ・サウンド』誌をだいぶ処分してしまって、発売時期、値段、仕様などが詳しく把握できなくて申し訳ない。自分が手に入れた個体はどなたかが個人輸入されたもののようで、少なくとも2オーナーの手は経ている。相場より大幅に安く購入できたのは、オーディオの神さんが鈴木裕の愚かさを見かねてあてがってくれたのかもしれない。

 なぜ入れ替えたのか。

 2015年の6月にCS-7について「ハネムーンまで16年もかかったのだ。もうしばらくはイチャイチャしていたいではないか。」と書いた(第86回/うちのスピーカーについて)。その後、電源関係や高周波のノイズ対策を進めていくうちに、スピーカー自身のSN問題が浮き彫りになっていったのは事実だ。端的に書くと、時にアルミという振動板の素材の響きがダイレクトに鳴ってしまうツイーター、発砲スチロールのフタをしてあるミッドハイとミッドローの振動板。そしてエンクロージャーの造りから来る付帯音やノイズフロア。これらが再生音の足を引っ張り、解決できない問題として残ってきた。





 そう書くとすべてお見通しだったみたいだが、実際にはアヴァロンに替えてみてそういった項目の性能の違い、たとえばノイズフロアが低いとか、振動板などの付帯音がしないといったことが具体的に即物的にわかって、愕然としたというのが本当のところ。「けっこう損してるんだろうなぁ」とか、「音量を上げるにつれ、ノイズも増大している」と漠然と感じてきたが、アヴァロンに替えてみると「35%損してた」とか「この帯域は12dB悪かった」といったように具体的な差異として認識できた。CS-7を鳴らしていく渦中においてはまだまだいけると思いながら上を目指すのが人情ということだろう。そう自分自身に言い聞かせつつも、どうも音の向上率が悪くなってきたという実感はあった。


 率直に言おう、CS-7はやり切ったのだ。
 ちょっとした小さな不満。これが長期に渡って蓄積していった結果、いきなり切り出される熟年離婚のように、唐突な買い換えが起こったのだと今は冷静に考えている。



パロメトリックイコライザー(ちなみにアヴァロン・デザイン社のAD2055。アヴァロン・アコースティックとは関係ない)のセッティング。ここから最低域は17Hzを上げるように変更している。


 現在の音の状態としてはけっこうちゃんと鳴っている。逆に言うとティールがどれくらい鳴りにくかったということの裏返しでもある。
 セッティングとしてはとりあえず3つ変更した。まず、ティールはひたすら平行に置いていたが、アヴァロンは内振りにしている点。パワーアンプの下に入れていた金属製スパイクとスパイク受けを一カ所だけ外して、オーディオリリプラスの石英のインシュレーターに替えたこと。そして3つめがパラメトリック・イコライザーの調整だ。

 パラメの調整は大きく言うと、いじっている要素としては3点。

 まず、部屋のレゾナンスに合わせて、60~180Hzあたりを持ち上げている。それから低域の鳴りを良くするために、17Hzを微妙に持ち上げている。ピアノで言うと、弾いている低音の、その1オクターブ下の鍵盤を押して、ダンパーを開いているようなイメージ。そして、たぶん一番大胆にやっているのが5kHz以上を2dB近くずっと落としている点。3.5kHz以上にするか5kHz以上にするか迷ったのだが、うちに来たアイドロンはツイーターが鳴りすぎる傾向があってこの部分を抑えて普通の音にしている。






スピーカーケーブルを一人で交換するためにはこうしたことになる。

 鳴っている音のことをまとめて言うと、ティールからの入れ替えで最低域の5~6Hz分の再生レンジを失いつつ、中高域のリニアリティや反応の良さを大幅に獲得。能率も聴感上1.5dBくらい高くてしかもスピーカー自体のSNがえらくいいので、以前より小音量でもよく音楽が聞える。そう、こちらから音を猟りに行かなくても、向こうからカゴの中に入ってくるような、よく「聞えて来る」音なのだ。自分でもこんな小さめの音で音楽を聴くことになるとは思わなかった。おかげでパワーアンプをクリップさせる危険性が大幅に減ったのはうれしい誤算。

 繰り返すが中高域の静かさと音の立ち上がりの良さはちょっと別次元で、かなりクセになっている。チェンバロとかギター、そしてピアノといった楽器の音がきちんと立つようになった。

 ただ、スピーカー端子が底面にあり、プラスネジで締めつける形式だ。ティールも底面にあってインシュレーターが低い時代にはスピーカーケーブルの交換が大変だったが、アイドロンに至っては、一人で作業するのならいったんスピーカーを倒さないとスピーカーケーブルを交換できない。




 それにしてもなんで二代続いて、こういうスピーカーなのだろう。底の面に端子があるのってそうそうないと思うのだが。一般の方だったら問題ないのだろうがスピーカーケーブルのテストには困る仕様だ。そのためにオーグラインのISISジョイントを導入した。オーダーした翌日にはスピーカーケーブルのテストの発注があったのも到底偶然とは思えない。オーディオの神さんもいたずら好きなのにもほどがある。

 今はセッティングの確認ということもあるが、なにしろ家にあるさまざまな音楽を聴きなおしている。これがもう発見の連続だ。オーディオにとってスピーカーを替えるということの大きさを痛感している。そもそも朝起きて居間に来るだけで部屋の様子が違うのが新鮮だ。あと2年で還暦だが、人生、オーディオで音楽を聴く部分に関してだけはやり直せている気がする。



スピーカーケーブルのテストに備えて、オーグラインのISISジョイントを導入した。スピーカー下のインシュレーターはオーディオリプラスのOPT-SS-GR。

(2018年2月28日更新) 
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鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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