コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第195回/ステレオ再生を見直したら、モノラル再生が生き返った6月 [田中伊佐資]
●6月×日/ずっと、ずっと、ずーとやろうと思っていたのだが、面倒くさくてできなかったことがある。ラックの下にボードを敷くことだ。イルンゴオーディオのアピトン合板ボードgranndezza(90×90cm)がちょうど2枚遊んでいた。この上にラックをセットして、そのスパイクを突き刺そうと思案していたのだった。 しかし当たり前だがすべての機器をラックからおろさないといけない。アンプ類はひとりでなんとか運べるが、レコードプレーヤーやラック(クアドラスパイアQAVX32)は重すぎて人手が必要だ。セッティング変更で音が良くなる確証はないし、音が出ないわけでもないしで、計画を先送りにしていた。 ただまあ、すでにもう暑い季節だが、これからもっとひどくなることを想像すると、もしやるなら一刻も早いほうがいい。息子の若い力を頼みにして、そのプランを実行することができた。 |
![]() イルンゴオーディオのgranndezzaに刺さったクアドラスパイアQAVX32のスパイク |
それはラックの後ろ、左右スピーカーの中央にジェンセンのヴィンテージ・スピーカーを置くことだ。無論それはセンタースピーカーではなく、ステレオ再生とは別にモノラル・システムを組むのである。
モノ再生は部屋の片隅でやっていた。音はちっちゃくまとまりがちだった。あまり目を掛けずにいたので、ふてくされたような音だった。そうすると疎遠になる。鳴らし込みが不足になる。ちゃんとスポットが当たる場所に引っ張り出したのはその悪循環を絶つことにある。
カートリッジはGEバリレラ、トーンアームはグレイ108-B、プレーヤーがSP-10MK3。暫定的に、フォノイコライザーはオルトフォンEQA-1000Ta、真空管アンプは人から借りているトライオードのものをセットした。この2つはステレオ仕様なので、いずれはモノラル専用モデルに変えたい。
とりあえずカーメン・マクレエの『ブック・オブ・バラーズ』をかけてみる。すると長いことはめていた重い足かせが外たかのように、いきなりジェンセンは跳ね起きた。ソウルフルな歌声がズドーンと部屋のセンターに出っ張ってきた。あまりの変貌ぶりにびっくりした。
僕は情けないことに何年もの間、ジェンセンの真価を発揮するまでに至っていなかったことをここで気づかされた。
![]() ラックの裏にセットしたジェンセンのモノラル・スピーカー |
モノラル専門店「Record & Audio Store BUNJIN」の宮本さんが言っていた「左右2本のスピーカーで聴くモノラル・ソースは、音が弱い」の意味がようやく心からわかり、それを噛み締めた。 ジェンセンのエンクロージュアCA-12は、おそらく60年以上も前に作られたもので、板厚はとんでもなく薄く、コンコンと叩くとアコースティックギターかと思うような音がする。ガチガチに足元を固めるのではなくGクレフ音響のフローディング・ボードに載せてふわふわと動くようにセッティングした。これがよかったのかもしれない。 いやしかし、それだけでここまで変わらないだろうから、多分偶然にもセットした場所と水が合ったということなのだろう。 モノラルのレコードが気持ちよくかかってしまうと、第186回で書いたベーシスト小林真人さんのようにステレオ録音でもモノラル・ミックスしたくなる。 |
ステレオ再生を突き詰めようとすると、音楽そっちのけで、音だけにフォーカスを絞って神経を研ぎ澄まさなければいけないところがある。 一方でモノラルには「そんな細かいことどうだっていいじゃん」と解放してくれる。懐が深いのだ。だからモノ盤を聴いていると精神的にすごく楽。このまま太平楽な音楽風呂人生もいいのかなあと思ってしまう。 そうはいっても、アンプとフォノイコライザーはまだ間に合わせだ。思いっきりカッチョいいヴィンテージ・モデルをこの夏、探し始めることに決めた。 |
(2018年7月10日更新) 第194回に戻る 第196回に進む
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