コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第203回/オーディオに山の頂点みたないものはあるのだろうか。[鈴木裕]

 ザ・フォーク・クルセダースの名曲は「青年は荒野をめざす」だったが、じゃあオーディオは何を目指すのか。結論から言ってしまえば、どこを目指してもいい。大げさに言えば人の数だけオーディオのスタイルがある。そのそれぞれをどんどん追求していくのがきっと楽しい。趣味とは道具や道具を使っていること自体が目的化する。


「アンダンテラルゴのTMD」
もう何回も紹介しているが、端子どうしの接触している部分での、音楽情報やエネルギーの伝達率が相当に上がる。


「コード・カンパニーのスピーカーケーブル」(▲クリックで拡大)
コードミュージックやセイラムTの端子部にアルミのシールドが加わった。以前の仕様と比較すると、ここでも電磁波の影響が確実に低くなっている。長さでは2~3センチだが、効果は大きい。

 さて、その中で自分がやっているのは比較的大型のスピーカーをちょっと大きめの音量で鳴らす、というスタイルだ。そのココロはオーケストラとかジャズの生演奏をその会場で聴いている気になるような音楽の再生だ。あるいはポップ・ロックのスタジオ録音のものでも、その世界をハイファイなオーディオを使ってリアリティ高く再生するのは最高な瞬間だ。忠実度の高い再生、ハイファイなオーディオというやつだ。

 では高い忠実度ということは、もし仮に忠実度が100%になったら、登山における山頂踏破のようにオーディオというものを上り詰めたことになるのか。どうもそうじゃない。うすうすは感じていたが、だんだんとリアルにそう思うようになった。

 オーディオのレベルが上がっていくことを自転車で山を登っていくことにたとえてみよう。以前に書いたかもしれない。基本的に舗装してあるワインディングロードを、自分の脚でペダルを漕いで登っていく。下から見ると頂上は見えない。だいぶ登ったと思って下を見ると、けっこうな標高になっている気がする。しかし、さらに上がっていくと、さっきの下を見下ろした地点が実はまだまだ低い場所だったと思わせられる。ハイファイのオーディオが良くなることって、そういう風に感じている。その繰り返しがしばらく続く。

 そうやっているうちに雲海が見えるような地点に到達する。標高自体もそれなりに高いのだろうが、空気の感じとか空の見え方自体がかなり別世界な感じになってくる。いや、オーディオの音の話だが。では頂上が近いかと言うと、ある時に(急に具体的な話になるが)電源ケーブルを交換してみたら、いきなり音楽を再生するリアリティがおそろしく向上。その前の段階ではたしかに雲海が見えていたのだが、まだまだだったということを見せつけられる。上には上がある。


「オーディオリプラスのケーブルノイズスタビライザー」(▲クリックで拡大)
オーディオケーブル(インターコネクトケーブル、スピーカーケーブル、電源ケーブル、デジタルケーブル)などから高周波のノイズを誘導し除去するもの。現在はプリアンプの電源ケーブルに使っている。


「ティグロンのケーブル慣らし機」(▲クリックで拡大)
デモのために持ち込まれたが、5分間の処理で驚くほどの効果があった。いずれくわしく紹介したいが、自社製品だけでなくユーザーから依頼されたケーブル類も処理サービスする予定だという。


「ケーブル慣らし機の表示部」
その名前はCable Harmonist(ケーブル・ハーモニスト)。音の抜けが良くなり、空間が広がり、音がほぐれ、そのケーブルの価格をはるかに越えた性能を引き出してくれる。

 現在の自分のオーディオの状態は、そんな雲海が見えつつもまだまだ上もあるように感じている。それが山で言えば五合目なのか、七合目なのか。はたまた四合目なのか三合目なのか。率直に言ってよくわからない。

 そんな折り、アコースティック・リヴァイヴの主宰者である石黒謙さんと話して言われた言葉がひどく耳に残っている。「オーディオは青天井ですから」。青天井とは、青い空を天井に見立てた言葉で、株の取引などでは相場の上限のないことを意味する。そう、オーディオには山頂という終点がない、ということを言われたのだった。この言葉が響いた。

 と書いてくると、満足できる地点まであまりに茫洋として捉えどころがないというか、道のりが遠すぎて嫌になってしまいそうだ。いやしかし、登っているようで下がっている時もあるし、良くなったり芳しくなくなったりしていること自体が趣味の一部なのかもしれない。まだまだ伸び代があるわけだし、今よりもさらに何かが良くなると思えること。これを別の言葉で表現すれば希望を感じるという。

 村上龍は『希望の国のエクソダス』で「この国には何でもある。ただ、『希望』だけがない」と書いたが、自分の脚でペダルを漕いで山を登っていくと意外と希望はあるのかもしれない。ただし受け身じゃだめだ。クルマの後席に乗せてもらって、いつまでたっても終点に到着しなかったら運転手に文句を言うだろう。受け身って結局そういうことだ。自分の脚、自分のエネルギーを使って登っていくから面白い。この時に、「正解」とか「コンプリート」とか「クリア」みたいなイメージに囚われると辛くなる。

 1992年の秋までオートバイのロードレースの全日本選手権を走ってきてリタイヤ。その年の暮れからイケオンの試聴会に通うようになって25年経った。なんと四半世紀だ。飽きていないどころかオーディオがますます面白くなっている。それはいまさらながら手強いし、時に愉悦がある。メカニカルであり、物理的であり、時に化学で、やっぱり音楽が鳴らないとどうしょうもない。答えは音楽の中に吹いている。

「アコースティック・リヴァイヴの電源ケーブル」(▲クリックで拡大)
出川式ユニット搭載の電源ケーブル「POWER SENSUAL-MD」。この膨らんだところが出川式の部分。メーカーでは「電源ケーブルから発生する磁界の打ち消し磁界により電源供給能力の劣化が無くなり、一種のブースター効果によりエネルギー感や躍動感が劇的に向上」「電源ノイズとグラウンドノイズも強力に吸収消滅(中略)。S/N比も大幅に向上」すると説明する。今まで聴いていた音はなんだったのだろうと思わせるほどの存在だ。圧倒的な向上率。

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鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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