コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第206回/「8トラックテープ友の会」をゆるりと開いた10月 [田中伊佐資]
●10月×日/ようやくステレオ誌12月号の「ヴィニジャン」で8トラックテープのことを書くことにして、編集担当の吉野俊介さんと齋藤“針と溝”圭吾さんの家にお邪魔した。 「ようやく」というのも、やけに勿体ぶった調子だが、3人とも8トラを既にやっていて、僕は隠しているわけではなかったけど、大っぴらにしないでいた。 その理由は極めて明快で、あんまり「いいぞ~」と連呼していると、テープを漁る人が出て、中古価格が高騰するのを避けたかったためだ。 ほかの2人はそういうケチな料簡を持っておらず、むしろ8トラを広めたがっているようだが、僕は自分の趣味に関しては利己的であさましい。 |
齋藤圭吾さんが所有する8トラのテープ(一部) |
訪問した齋藤さんは以前から8トラを始めていて、僕らの先導者だ。
いろんな音楽好きの友人に紹介したらしいが、「ああ、あれね。まだあるんですか」と事務的な応対しかしてもらえず、乗っかってくる人は皆無だったらしい。
ところが僕らは面白がった。齋藤さんの言う「チャチ厚い音」にほだされた。寸詰まり感があるローファイ・サウンド、だけどミッドレンジが妙に濃い。8トラが全盛を極めた70年代とその頃のサウンドにいい感じでうまく馴染む。
3人が所有する同一モデルのデッキを持ちよって、音の違いを確かめる |
僕は当初オープンリールテープまではいかないけれど、カセットテープ以上の音質でオープンより扱いやすいテープといった、いいとこ取りのイメージでいたが、話はそんなにうまくない。 というのもカセットは普及とともにデッキが技術的に発展した。それに対して8トラはピュアオーディオよりもカラオケに向かっていった。8トラそのものの資質は決して悪くはなかったが、なにせ高級なデッキが作られていないから、良質なデッキとカセットのコンビに対し、強烈なアドバンテージはない気がする。 デッキは齋藤さんが使っているのと同じアカイのCR-81Dを僕は手に入れた。ヤフオクでは1万円前後で手に入る。とても真っ当な音だった。 |
いずれにせよ、いまいちデッキについての情報が少なく、まだまだ開拓の余地があるだろう。本場アメリカでは未知のデッキ・メーカーがいくつもあり、どえらい音を出すものがあるかもしれない。
ところで、齋藤さんが使っているアンプは、英国リークのSTEREO 70。スピーカーはJBLの4311アルニコ仕様だ。システムの方向(齋藤さんの嗜好)と8トラが持っている腰が強いサウンドはうまくマッチしていて、ソフトを変えるごとに「うん、いいよねえ」みたいな声を3人はいちいち漏らした。自分の家より齋藤さんのシステムのほうが8トラ映えする音だった。
ちなみに聴いたテープは、エルトン・ジョン『グレイテスト・ヒッツ』、ジャーニーの『エスケイプ』、マディ・ウォータース『ハード・アゲイン』、アトランタ・リズムセクション『アンダードッグ』、ニール・ヤング『ハーヴェスト』などなど。
なおステレオ誌には、経年劣化しがちなテープの蘇生方法を書いた。大多数の人はまったくもって関係ないだろうけど。
●10月×日/ミュージックバードがMXTVにCMを打つらしく、出ることになった。事前に「レコードの番組をやろうと思ったきっかけは?」「レコードしかかけない番組の面白さは?」という質問が用意されていて、それを喋っているシーンを撮るという。 こういう場合、事前に考えておいて語れば語るほど空回りし、核心から遠ざかっていくものだろうから、その場で思いついたことを言うことにした。 |
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CMなのでそんなに長くは必要ないと知りつつも、完全にBGMはスガシカオなのでペラペラ喋ると、「田中さん、もうちょっと短くお願いします」とNGが出た。
同じことを相当端折って言うと「まだ長いです」。
さらに短くしてもだめ。
結局のところ「レコードの音の魅力はリアリティと迫力ですね」みたいな、キャッチ一発でOKとなった。だったら気の利いたのを何個か考えてくればよかったなあと思ったが、そうなるとわざとらしくてコケるのだろう。
そもそも僕の出演部分は採用されたのだろうか。外されていたらショックだよね。
(2018年11月15日更新)
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