コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

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第207回/オーディオの音量[鈴木裕]



 “ハイファイ”を辞書で引くと「〔high fidelity(高忠実度)の略〕。オーディオ機器で、再生される音が原音に忠実であること」(大辞林 第3版)と出てくる。この言葉が使われる時には一般的には音色感を指す場合が多い。たとえば、ヴァイオリンの音がヴィオラでもチェロでもなく、ヴァイオリンに聞えることとか。そんな音楽ソフトはないが10円玉を机の上にちゃりんと落とした音が、1円玉でも5円玉でも50円玉でもなく、ちゃんと10円玉に聞えること。基本的な話だが、音色を元通りに再現することが意外と大事だったりする。



マイテックデジタルのManhattan DACⅡ。多彩なデジタル入力を持ったUSB DACだが、アナログ入力もRCA2系統、XLR1系統を持ち、プリアンプとしても使っている。

 サウンドステージのハイファイについても同様に考えている。ちなみに音場感ではなくてサウンドステージという言葉を使用するのは、「音場」という言葉がふたつの意味に使われていて混同されがちだからだ。ひとつはオーディオを鳴らしている場所の意味。「音場補正」という場合、その補正している対象は部屋の音響特性だ。つまり、音場=部屋。もうひとつの意味が、スピーカーからの音によって見えてくる音の空間や、音像の見え方のこと。人によっては「音場」を「おんじょう」ではなく「おんば」と呼んでサウンドステージの意味に使っている気がするが、誤解されないように文字数が許す限りサウンドステージという言葉を使っている。





マイテックのボリュームは、いわゆるエンコーダー入力のつまみで、何回転もする。感触は少し軽め。音量調節自体は、アナログ領域とデジタル領域のふたつの方式から選べる。また、このツマミを押すと、ヘッドフォン端子の音量調節に切り替わる。


 で、そのサウンドステージのハイファイだ。たとえばオーケストラの演奏をワンポイントステレオマイクで収録するようなものであれば、各パートの音像の位置関係やステージの床、天井や壁などの見え方など、サウンドステージのハイファイというのは理解しやすいんじゃないだろうか。ポップスではそういうものを基本として、ミックスダウンによって各楽器の位置やエコー成分を創造していくことになるのだが。


 そして3番目が音量についてのハイファイだ。これについてはあまり語られない。たとえばブルーノートトウキョウに行って聴いた音量と、それを収録したライブ。これを同じ音圧(物理的に計測できる数値)で鳴らすという考え方がひとつある。マーラーの第8交響曲のように、オーケストラのメンバーと合唱隊合わせて1000人というような作品だとだいぶ大音量になる。でも、それを客席の最前列の真ん中、いわゆるかぶりつきで聴いた音圧と、ホールの一番後ろの方で聴いた音圧とでは違うはず。ということであれば、マイクの位置の音圧、というように考えるとハイファイの音量になるのかもしれない。






 しかし現実問題として音量ハイファイは難しい。以前にピアノを練習する音がうるさいと隣人が怒った末の殺人事件があったが、もしみなさんがそれを目指そうとしたらハイファイ音量殺人事件勃発である。逆にあまり小さくないコンサートホールでのチェンバロのソロの演奏など、実際の音量よりも上げて聴きたい楽器や音楽もあるだろう。音量ハイファイを実行するのはけっこう難しい、というのがまずひとつ



サンバレーのSV-192A/D。珍しく、A/Dコンバーター機能を持っているプリアンプ。CR型のフォノイコライザー部(MM用)や、ライン入力のゲインを20dB/10dBと切替えられたり、出力レベルの調整(-10dB)の機能もある。

 そもそもオーディオとはハイファイ音量を目指しているのかという問題もある。音色ハイファイ、サウンドステージハイファイはあるが、オーディオにおいて音量というのは自由に上げたり下げたりできるもの、という認識が一般的じゃないだろうか。また、聴き手側からすると無闇に音量は上げられないし、むしろ積極的に下げたい時もある。BGMはバックグラウンドの音量だからこそ成立するのであって、ホテルのロビーでの音楽が音量ハイファイで実在感高く、臨場感高く鳴っていたら到底バックグラウンドにならない。うるさくて会話もできない。





VUメーターはプリの出力を表示。+4dBの固定と、可変のモードがあるが、うちではパワーアンプの出力の限界に合わせて可変で使用している。ティールやアヴァロンといった、能率の低いスピーカーを鳴らす上では、必需品のメーター。ここまで針が振るとクリップが始まるというのがわかりやすい。


 そして実はやっとここから本題になるのだが(長い前フリだった)、あるオーディオには得意な音量が存在している。スピーカーもバワーアンプもそうだが、ここではプリアンプの話をしたい。うちではメインのプリはサンバレーのSV-192A/D。特にハイレゾやMQA-CDの鮮度感が欲しい時にはマイテックデジタルManhattan DACⅡをDACプリとして使っている。これらの音量に対する対応力の話だ。


 「いいオーディオは音量が決まりやすい」というのをどこかで読んだことがある。あるいは「いいプリアンプは音量が決まりやすい」という言い方をしてもいいかもしれない。そういう話からすると、サンバレーのプリは音量が決まりやすい。ボリューム機構は特に何の変哲もない、と書くと語弊があるが、可変抵抗摺動型のものだ。ポップスを聴く時はだいたいこのくらいというのがある。クラシックはソフトによって録音(マスタリング)レベルがさまざまなので一概には言えないが。





 これに対してマイテックのボリュームはおそらくラダー型の抵抗を電子制御でコントロールするタイプだ。いわゆるアナログ領域での音量調整。もうひとつ、デジタル入力に対しては32bitのDACデバイスのデジタル領域でも音量をコントロールすることもできるが、うちでは基本的にアナログモードのボリュームを使っている。このマイテックのDACプリでは音量をかなり小さく絞っても聴けるし、音量をかなり大きくしてもうるさくならないのでやはり聴ける。音量の自由度という点ではこちらのが高い。



グリーンと黄色、そして写真では点灯していないが赤のインジケーターは、デジタルアウト用の入力レベルを確認できる。うちではこれでCDのマスタリングレベルやアナログレコードのカッティングレベルを把握している。

 音量の自由度が高い。ところがこれがちょっと考えもので、気がつくとすごく大きな音量で聴いていて疲れている時がある。それで下げるのだが、下げても聴けるし、さらにかなり下げてもまだまだ聴ける。音の形が崩れず、浸透力の高い音で、情報量もそこそこあるからだ。サルトルの「人間は自由という刑に処されている」ではないが、自由度がありすぎて、自分の聴くべき音量がわからなくなってくるのだ。いいクルマはゆっくりと走らせても、サーキットのような場所で全開走行させても破綻しないが、そういう能力の高さがマイテックにはある。




もうひとつのプリアンプであるマークレヴィンソンNo.26SL。現在はフォノイコライザーとして使用している。こうした使い方では、一般的にはボリュームを通らないRECアウトの端子をプリに入力する使い方をすべきだが、プリアウトをサンバレーに入力。カートリッジの出力によってボリューム位置を変えている。

 これに対してサンバレーのプリではいつもの定食屋に入って、いつものメニューを頼んでおいしいように、普通の音量で普通に音楽を聴いて満足できる。もちろん、ボリュームを上げてもうるさくなるわけでもないし、絞ってもそこそこ浸透力のある音なのだ。何か特に意識しなくても普通に音量が決まりやすい。ということで、夏の前からサンバレーとマイテックで取っ替えかえし、そこにマークレヴィンソンのNo.26SL(ふだんはフォノイコライザーとして使っている)まで参戦していろいろやったわりには、結局ふだんのプリはサンバレーに落ち着いている。

 音量がすっと決まるのが楽だから、と書くとなんか情けないが。プリアンプは再生音の基本的な音色感やタッチ、演奏の温度感などを支配するものだが、それがある程度の音量でしっくり来るからなのだろう。20万円程度の値段だったので推薦しやすかったのだがもうディスコンになってしまった。もうちょっとSNが良くならないかなとか、音のシャープさが出ないかとも感じたりするのだが、音が良くほぐれるし、いい意味で普通の音。違和感がない、というのが大事な要素なんだなと痛感させられる。

(2018年11月30日更新) 第206回に戻る 第208回に進む

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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