コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第215回/フェライトコアによる電源対策の、途上経過 [鈴木裕]





 最近のうちのオーディオと言えば、あいかわらず性懲りもなく電源関連をいじっている。このコラムの「第209回/魔法のヴェールをかけた話」で書いたようにある程度いい状態に落ち着いて、その音を2カ月ほど楽しんで来たがいつまでも同じ地点に立っているわけにもいかない。「電源/電磁波ノイズ問題」をより安価に対策したいと思ったのもある。アフォーダブル、つまり「手に入れられる」とか「手頃な」というところがイマドキけっこう大事ではある。多くの人にノイズに足を引っ張られていない音を楽しめるにはどうしたらいいかということも考えているし。



TDKのフェライトコアZCAT3035-1330。ケーブルをはさんでパチンと締めるときちんと装着されるが、フックのところの設計や製造の精度が高く、取り外すのも簡単。さすがに良く出来ている。

 具体的にはフェライトコアによるノイズ対策だ。ただしこれ、正直に書くともともとはアンダンテラルゴの主宰者、鈴木良さんからのミッションだった。コラムの209回を読まれた良さんが「アンダンテラルゴの試聴室ではフェライトコアを使っての対策をしています。コンポーネント側で対策するのもいいですが、ノイズを出す側にも必要ですね。ほんとは隣の家にまで行ってフェライトコアをつけたいくらいです(笑)」と言う。自分が知っている限り、オーディオアクセサリーのメーカーの試聴室は音がいいところが多いが、同時にかなり徹底的というか、やるべきことをこれでもかと言うくらいやっている。アンダンテラルゴ試聴室の音の秘密のひとつが電源対策なのだろう。





家から100mくらいのところにある柱上トランス。碍子に記されている300Aという数字がまぶしい。


 そして送って来たのがTDKのフェライトコア。いわゆるパッチンコアだ。自分流に言うと、寄り添い型のノイズフィルターである。特にオーディオ用というわけではない。メーカー型番は、ZCAT3035-1330
 ケーブルなどをクランプするタイプのもので、内径は13mmまでの直径の太さが入る。また細いコードであればダブルに巻くことで効果を高められる。これを鈴木良さん、うちに80個送ってきた。だいぶ多い気もするが、その個数が意味するところは「納得のいくまでやってくださいね」ということであって、決して「全部を使いきるといいことが待ってますよ」ということではないだろう。ちなみにネットで値段を調べてみると、1個だと600円台の中盤だが、何百個も購入すると半分くらいの価格になるようだ。




 その作動原理をTDKのウェブサイトから引用してみよう。
 「フェライトコアの高周波吸収特性により高周波ノイズの吸収効果に優れており、またコモンモードノイズに効果があり信号の品質に影響なくノイズ対策ができ」る。そんな説明だ。ただしオーディオ的クォリティというか、微妙な音質を気にする立場から言うと「信号の品質に影響なく」というわけにはいかない。たとえばこのZCAT3035-1330をパワーアンプ、プリアンプ、CDプレーヤーの電源ケーブルにいきなり装着してしまうと、たしかにその再生音のノイズは減るものの、音のうまみやまろかささまでも吸収されてしまう。低域の密度も薄くなるし、低音の音像も茫洋としてくる。つまり、音楽信号に対しては吸収してはいけない何かまでをも吸ってしまうようなのだ。



2階用の配電盤。その電気の入り口の、赤と黒用のケーブルにフェライトコアを装着。スペースがないので、白用には、もうひとつの1階用の配電盤の出口にとりつけてある。





地上電話の子機と、インターホンの子機。そしてテレビ等の電源にいく電源ケーブルの途中に3個。意外と効果的(文中のテストの⑥)。


 この”何か”をきちんと説明できないのがもどかしい。また後述するように、いろいろなところに取り付けてみて、徐々に音が改善していくわけでもなく、ノイズが少なくなったり、ある場合副作用が出たりもして、結局のところ音を聴いて判断していくしかないのが現状だ。興味のある方は、株式会社村田製作所のウェブサイトに「ノイズ対策 基礎講座」というのがあるので参照してほしい。なかなか一筋縄ではいかないことは、とりあえず理解していただけるかもしれない。


 とにかく具体的にリポートしてみたい。電源関連のことについては個々の家庭によって事情が違って、なかなか一般論が成立しにくい。ということでうちの環境のことを書いておこう。一戸建てだが二世帯住宅で、電気代を応分に支払うために1階と2階とで配電盤はふたつに分けてある。電気メーターが戸外にひとつと、2階用の配電盤の横にひとつ、合計ふたつが装着されている。また、もっとも近い柱上トランスから100mくらいのケーブルが何本もの電柱を伝わってやってくる環境なので、けっこう条件は悪いかもしれない。




①配電盤ふたつにまたがって赤と黒(電圧線)と白(中性線)にフェライトコア(以下、コアに省略)を装着。この段階でコアが振動してジリジリと音が出ている。そして、一階の200Vのエアコンふたつ、テレビ関連など、合計11個を取り付ける。
 音の変化としては、力強くなり、コントラストが明確に。ノイズフロアが下がる。特に低域の押出しが良くなる。

②2階の部屋のひとつの、エアコン、テレビ回り、PCまわりにコアを合計9個。
 音の変化としては、重心が明確に下がり、低域のパンチが出てくる。押出の良さだけでなく音が太くなった感覚。ただし、高域も出てきて、結果としてドンシャリ傾向も。

③2階の仕事部屋の、PC回り等、エアコン。そして同じく2階のトイレのウォシュレットに、合計4つ取り付け。
音は高域のある帯域が強調される。サウンドステージはやや手前に展開。音像も大きめ。微妙にエグミのある音だが、ここは付けたままにしておく。

④2階のオーディオのある部屋のエアコン(200V)、テレビまわり、冷蔵庫など。寝室のエアコン。洗濯機、洗面所のヒーター、キッチンの照明のLEDなどに合計8個。ただし、冷蔵庫以外はこの季節、この時間帯はほとんど使用していない。
 音はSNが良くなり、音の分解能が上がる。低域はレンジが拡がるが、押出し自体の変化はない。

⑤電気メーターの近くの有線放送(ネットの光回線やそのコントロールユニットの電源?)、戸外で作業するためのリール用延長コードの根本などに3個取り付け。

 高域が強調され、SN感には変化なしなので、すぐにコア3個を取り外す。

⑥オーディオのある部屋にあるインターホンや地上電話の子機の電源アダプター、テレビ用HDDの電源アダプターなどに3個。音像それぞれがほぐれて、帯域バランスも整う。強調感がなくなる感じ。

⑦オーディオのある部屋にエアコンの屋外機からのパイプに沿わせて入っている、ミュージックバード、BS、CSのアンテナ線のそれぞれに合計3個。
 低域が伸び、太さも出るが、高域が強くなり、音がシェイプする方向。なんかくっきりしすぎて面白くないので3個とも取り外す。



プリアンプとCDプレーヤーとフォノイコライザー用の電源タップ(オーディオリプラスSAA-6SZ-MK2)。ひとつのコンポーネントにオーディオ用の並列型電源フィルターをかならずひとつ使うというやり方。この電源タップ自体にも高周波ノイズを誘導する機能があるのだが。

 といった感じで、現在はTDKのフェライトコアを35個取り付けてある。
 こう書くと整然と順調に作業が進んだみたいだがそうでもない。問題は、取り付けてぱっと聴いたのと何日か時間が経過した後で音が変わってくることだ。しかも、平日と日曜・休日ではやはりノイズの環境がだいぶ違う。1日家にいる時は、朝オーディオを鳴らし出してアンプが暖まったところでリファレンス盤を聴くのだが、その日その日で音が違う。つまり、電源コンディションが違うので、これまた何がどう効いて、良さとして感じられるのか、やりすぎなのかを見極めるのが難しい。





モノーラルのパワーアンプ2台用の電源タップ(オーディオリプラスSBT-4SZ-MK2SR)。この電源タップにも高周波のノイズを誘導する機能があるのに、あいかわらず並列型電源フィルターを個々に装着する愚直ぶり。

 というわけでまことに心もとないのだが、以上からぼんやりとわかって来たことをまとめておこう。
・配電盤のセクションの、オーディオがない部屋に対しては割りと大胆にコアを装着しても良さそう。

・オーディオ用から離れていても意外と変化率が強い場合もある。
・配電盤が分かれているからと言って、オーディオの再生音に対する影響という意味では。やはり家全体の電源はつながっている。
・電源スイッチを入れていない機器でも、なんかしらの影響はあるようだ。
・オーディオのコンポーネントが直接電気を取っている電源ケーブル、電源タップに対する細かい対策コントロールは、これだけフェライトコアを装着してもやはり効果的。


 どこかのフェライトコアを取り外す感じでもないのでこの状態で10日ほど経過した。実はこの後、オーディオ用電源ケーブルの製作・交換、締切りの繁忙期などもあり、35個はそのままになっている。取り付けた部位がある程度磁化するのだろうし、それが相互に影響し合っているようにも感じるのだが。

(2019年4月1日更新) 第214回に戻る 第216回に進む 

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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