コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

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第226回/2019年上半期、アタリ盤とハズレ盤を振り返った6月[田中伊佐資]



●6月×日/2019年の半分が早くも過ぎ去っていくところで、レコード棚を見つつ上半期の入手盤を眺めてみる。
 昨年は、ここ十年で最もレコードの金遣いが荒かった年で、その理由はモノラル専用システムが著しく台頭してきたため、ついついモノ盤も買ってしまったことが大きい。
 僕はコレクターではないので、それは大した枚数には至っていないけれど、オリジナルのモノは得てして気張る必要がある価格なので、昨年末にトータル額を算出したところ、やっちまったかという散財感は拭いきれなかった。
 年が改まることで、レコード買いの指向がくるっと変わるわけではないから、おそろしいことに、今年もその流れはでれでれと続いている。これまで入手した盤のちょうど4割がモノラルだった。
 そのなかでアタリ盤もあるが、ハズレ盤も混ざっている。この基準は僕の場合、内容というより音質だ。
 センターから大きな土管が突き出てくるような突破力、ステレオ再生では到底実現できない迫力を感じたらアタリ。期待したより音がショボイ(多分システムに合っていない)ときはハズレ。それが次の各3枚だ。






アタリ(順不同)
Inutil Paisagem - As Maiores Composicoes de Antonio Carlos Jobim/Eumir Deodato
 ジョビンの曲を集めたデオダートのデビュー盤。ブラジル録音。最近久々にLPで復刻されたので雑誌でも紹介したが、モノ盤の分厚い管楽器のアンサンブルがモーたまらない。
 小音量で流していると良質なBGM。音量を上げると音圧がすごくて全身で受け止めないといけない。YouTubeで全曲聴けるが、PCごときではその片鱗の「へ」の字も出ない。

Blues & Roots/Charlie Mingus
 1960年頃のアトランティックでレーベル面がBullseyeと呼ばれるデザインだったことが本盤購入の決め手。
 この頃のアトランティックを手掛けていたトム・ダウドの音はモッサリしていて、いまいちパッとしないのだが、この盤はかなり鮮烈で音圧も高い。
 アトランティックのミンガスはこれが一番好きだなあ。

You Got My Mind Messed Up/James Carr
 高校生のとき、吉祥寺にあった芽瑠璃堂で、これぞソウル名盤ですぞと店員に薦められ、何も知らないまま買ったのがこれ。
 その国内盤をずっと40年間聴いてきて、ディスクユニオン新宿にポソっとモノ盤があったので買ってみたら、度を超した爆音ぶりにひっくり返った。ソウルが好きだろうが嫌いだろうが、来客にはぜひ聴いてもらいたい絶唱の1枚となった。



左からInutil Paisagem - As Maiores Composicoes de Antonio Carlos Jobim/Eumir Deodato、Blues & Roots/Charlie Mingus、You Got My Mind Messed Up/James Carr







左からRed Garland's Piano/Red Garland、1965/Al Jarreau、In The Wee Small Hours Of The Morning/Frank Sinatra(10インチ盤)


 ハズレ
Red Garland's Piano/Red Garland
 ファースト・リーダー作『A Garland of Red』の音があんまりすごいので、セカンドのこっちも間違いないだろうと買ったら、音はなんだかおとなしい。同じプレスティッジかつ、ルディ・ヴァン・ゲルダーの録音であるにもかかわらず。
 というか、これだってヴァン・ゲルダーは高水準のジャズサウンドに仕上げているのだが、『A Garland of Red』が異端なほどラウドカットなのかもしれない。
「お前がリーダーか」と言いたくなるほどポール・チェンバースがブリブリしたベースを弾き、ガーランドの小粋なピアノ・スタイルを半壊させる。そこがたまらなくいい。僕はヴァン・ゲルダーが、ガーランドのデビューを祝って「盛った」と想像している。

1965/Al Jarreau
 アル・ジャロウがメジャー契約する前の1965年に残したジャズ・スタンダード集。1曲目にいきなり針飛び。キズかプレスミスかと思ったが、目を凝らしてまったくそれらしい気配がない。試しにステレオ装置で聴いたら、普通にかかった。
 モノラルなので65年頃に発売されたと疑いもせずに買ったのだが、おそらく音源がどこかから発掘され、プレスはずっと後の82年と判明。ピカリングのヴィンテージモノ針ではうまくトレースできなかったみたい。

In The Wee Small Hours Of The Morning/Frank Sinatra(10インチ盤)
 12インチ盤はいつの間にかモノラルシステムのチェック用音源になっている。冒頭のタイトル曲で、ネルソン・リドルのアレンジ・指揮によるゆったりしたストリングスから始まるのだが、この瞬間の包まれ感が最高。中域と低域を生かした弦のアンサンブルが、ブフアァ~と押し寄せてきたらシステムの調子は絶好調だ。
 となると10インチ盤の音はどんなもんかとずっと気になって買ってみたが、ある程度は想像していたが、12インチ盤には及ばなかった。ブファくらいかな。






ついでにステレオ編のアタリも(これも順不同)。

From The Fires/Greta Van Fleet
 2017年当時平均年齢19歳の若者がもろにツェッペリン・サウンドを繰り出すことに話題騒然だったが、僕もこのデビュー盤にはすっかりやられてしまった。今春のレコード・ストア・デイでやっとレコード化。
 ジャズでいえばパーカー系やエヴァンス系といわれるような巨人のフォロワー・ミュージシャンがいるが、別に彼らはマネしているのではなく、薫陶を受けつつさらに自分の個性を押し進めている。
 このバンドもツェッペリン派ではあるけれど、無条件でリスナーをのせてしまう力がある。あと、70年代ロックのおいしいところを散りばめたような楽曲がとてもいい。

Eastern Man Alone/Charles Tyler
 かつてステレオ誌の吉野編集長に聴かせてもらったことがあって、いつかオリジナル盤を欲しいと思っていた。アルトサックス、ベース、チェロの編成による騒がしいフリージャズ。
 しかし吉野さんも言っていたけど、この喧噪がどこか心に引っ掛かり、忘れた頃にまた聴きたくなる。

Voice in the Night/Charles Lloyd
 CDでしか発売されていないECM作品は結構あって、ちょっとずつレコード化されている模様だが、この復刻はまさかのまさかで不意を突かれた。それだけにうれしい。99年発売なので20周年記念盤なのかもしれない。
 となると、次作に当たる2000年発売の『ザ・ウォーター・イズ・ワイド』は来年レコードにしてくれるのだろうか、マンフレート・アイヒャーは。心から期待しております。



左からFrom The Fires/Greta Van Fleet、Eastern Man Alone/Charles Tyler、Voice in the Night/Charles Lloyd

(2019年7月19日更新)

 

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田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

東京都生まれ。音楽雑誌の編集者を経てフリーライターに。現在「ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズ批評」などに連載を執筆中。近著は「ジャズと喫茶とオーディオ」(音楽之友社)。ほか『音の見える部屋 オーディオと在る人』(同)、『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(同)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)、『オーディオ風土記』(同)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。
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