コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

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第227回/ソナス・ファベールのエレクタ・アマトール Ⅲのこと [鈴木裕]





 6月から鳴らしているアマトールⅢ。概要から説明していると長くなってしまうので、よかったらインポーターのサイトなど見ていただければと。

 実はすでにアマトールⅢについては4つの記事を書いていて、それぞれにけっこう肩の力が入っていて同じことを書くのもなんだし、ここではこのコラム本来の「雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ」ヨタ話というのをダラダラと書いてみたい。



ソナス・ファベールのエレクタ・アマトールⅢ。税抜きで130万円。




バッフルとバックパネルの黒い部分は皮仕上げ。大きなバスレフポートが背面にある。


 そもそもの発端は音楽之友社『レコード芸術』編集部の田中基裕さん。寺島靖国さんの文章にも出てくる「モトヒロ」だ。「俺のオーディオ」という企画で、ふだんはライターやフリーエディターなどが購入したり、買いたいけど買えないオーディオについて書く内容。注目の製品については、それに食いつきそうなライターを指名しつつ主観的な心情も含めて紹介する、というもの。その企画で基裕さんがエレクタ・アマトールⅢに着目し、「ご興味ありませんか」と声をかけてきた。聴いて衝撃を受けて、購入に至ったと。実はこのあと痛快なストーリーに展開するのだけどそれはまたの機会に。

 その取材の日、編集部に送られてきたエレクタ・アマトールⅢは、実は撮影用の個体だった。つまり、ぜんぜん鳴らしこんでいないもので、ちょっと聴いてもそれはもうザラザラのトゥイーターの音と動いていないウーファーの鳴り方で。仕方なくクルレンツィス/ムジカ・エテルナのマーラーの第6交響曲を大きめの音量で鳴らしたままにして、近くの喫茶店で打ち合わせ。1時間ほどしてから帰って来て試聴したのだった。そこでアマトールⅢの可能性を聞き取った。





 音について簡潔に書くと、まず低域のレンジが広いこと。30Hzが音程感正しく、きっちり鳴っている。これ、何人かの人に言っているのだが、あまり驚かないことに驚いている。ちなみにウーファーはエッジの外側までが145mm径。その外側に装着されたアルミ製のフランジの外側までが180mm径というサイズ。メーカーのスペックとしては40Hzなので、ずいぶん控えめというか、テキトーな数字だ。

 2番目の特徴は振動板が作動して空気の疎密波を生み出すだけでなく、エンクロージャーやスタンド(の特に底板)も響いていて、もっと大きなものが鳴っているような感覚があること。アヴァロンの時の方がニアフィールドリスニング的に、もっと近くで精密に聴いていた。アマトールⅢになって、よりサウンドステージの枠の大きい、鳴りを楽しむ聴き方になった。座る場所もアヴァロンの時よりもスピーカーから40cmくらい離れている。



エレクタ・アマトールⅢ専用のウーファーユニット。ここから30Hzをきちんと体感させてくれる






ツイーターは28mm径のシルクのソフトドーム。リングラジエータータイプの良さも合わせ持っているという。

 そして3番目にして一番大事なストロングポイントは、実際の楽器や声よりも”らしい”音がしてしまうこと。スーパー・フィデリティとかシズル感とかいろいろ書いているのだが。ただし、強調したりデフォルメしているわけではなく、数字で言うと3%くらいのスーパー・リアリティ成分が回春剤のように溶け込んでいて、本来のソフトの音と一体化している感じがある。それは時に生々しく、時に美しく、それぞれの音楽性によってAIが入っているかのように愉悦を感じさせてくれる。



 是非書いておきたい(そして、理解してもらえる人が少ないはずの)話題は、その音の聴かせ方が旧マクロムのツイーター、57.16(ゴーナナ・イチロク、と発音)の表現を思わせるものがあることだ。特に慣らしが進む前の方がその雰囲気があった。マクロムというのはイスラエルのスピーカーユニットのメーカーで、ホームオーディオ用がモレル、カーオーディオ用がマクロムという棲み分けだった。90年代のカーオーディオ界においてはディナウディオのエソターとマクロムの57.16が善きライバル関係であり、実は今でもその流れはあるのだが。たしか98年くらいには「マクロム」というブランド名はイタリアのメーカーに売却され、また、モレル自身、スピーカーシステムを開発するようになり、カーオーディオ用のドライバーユニットもモレル名義でリリースするようになっている。97~98年頃、インドのセダンのアンバサダーに自作したカーオーディオは4ウェイのマルチアンプシステムで、ツイーターが57.16、スコーカーが57.16S、ミッドウーファーが59.17。そしてモノーラルのサブウーファーがキッカーのS12dというシステムだったのを思い出す。



バスレフポートから覗き込むと、ちょうどその奥にツイーターの後ろ側が見える。ツイーターには無垢の木を加工し、音響迷路になっているバックチャンバーが装着されている。






ウォルナットの側板と本体の白大理石の底板の間には2mm厚程度のブラス(真鍮)のプレートが挟み込まれている。

 現代的なスピーカーの作り方と、アマトールⅢの考え方は正反対だ。エンクロージャーやスタンドを構成している、ウォルナット、大理石、ブラス(真鍮)、アルミ、鉄などが微妙に響きつつ、見事にリアリティ成分を生み出している。そういった作り方は現代のソナス・ファベールのチーフ・デザイナー、パオロ・テッツォンにとっても初めてのやり方じゃないかと。木は響かせてきたが、金属も石も鳴らしてしまうやり方なのだ。そしてその直接的に影響を受けた存在は、スタジオ・フランコ・セルブリンのアッコルドであるという見立ても50日くらい使ってきて変わっていない。師匠であるフランコへのオマージュであり、弟子として一本立ちし、亡き師匠への答のようなスピーカーなのだ。



 生形三郎さんに「ブックシェルフになっちゃったんですか」と言われたが、そういうこともあまり考えなかった。たとえ話として、ティールやアヴァロンを中型犬に、アマトールⅢを小型犬になぞらえてもみるのだけれど、この小型犬、耐入力はけっこうあるし、上記のように、もっと大きなものが鳴っている感じなので、どうも小型犬的なかわいげのある感じのスピーカーじゃない。そもそもアマトールⅢはブックシェルフでもなく、取説のシステムのところに書いてあるのは”スタンド一体型ブックシェルフ”だ(元の表記のままに写しておくと、2-way bookshelf/standmount vented loudspeaker system。実はこのventedの意味がいまだによくわからない)。あるいは、ティールの4ウェイ、アヴァロンの3ウェイからソナスの2ウェイになって、次はフルレンジですねと言う人もいるがそんなことも考えていない。



スタンドの入っていた段ボールの箱には白大理石の産地、カッラーラから取られた名前、カッラーラ・スタンドと印刷されている。






スタンドの脚は、まずブラス(真鍮)で大理石を挟み込み、そこに鉄製のスパイク/スパイク受け。スパイク受けも小型で制振しきらない考え方のようだ。


 セッティングについては、メーカーの取説に正三角形の頂点で、強い内振りにしたイラストがあって、それに準じた置き方をしている。というか、アヴァロンの時から少ししか変化していない。カイザーサウンドの貝崎静雄さんから教わった音の捉え方を大分実践できるようになっているので、左右チャンネルの間隔や角度については確信を持って鳴らしている。モノとしては付属のジャンパープレートを外して、ザ・コード・カンパニーのコードミュージック・リンクにしているくらい。





 貝崎さんの名前が出たところで思い出すのは、本体やスタンドの各部材のモノの方向性について。貝崎さんの言う”エネルギーの走る方向性”の良い状態がウォルナットでも大理石でも守られて組んであって、イタリアの職人も良くわかってるなぁと。たしかにそれを把握できないと響きが相殺しあってしまったり、うまく解放できないので当たり前と言えば当たり前なのだけれども。

 完璧なスピーカーはないけれど、部分的には103点を取れている稀有なトランスデューサー、というのが現在のエレクタ・アマトールⅢに対する結論。愛聴盤というか、愛聴曲(って、1万曲くらいあるが)を聴き直したいのだが、そんな贅沢な時間もなかなか取れず……。



ウォルナットの美しい仕上げの天板。丸みを帯びた直方体で、ついつい布で磨くというか、撫でたくなってくる。

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鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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